「あるところに一年じゅう、朝も昼も夜も、雨のやまない国がありました。」
生まれたときから星空というものを見た事のないこの国には、くるくるちぢれて、ふくらんでいる髪の毛の人が多い。雨の国だから。
独特の文化も育っている。
挨拶に、お天気の話をするときは「きょうは、まろやかな雨ですね」とか「今夜はとんがった雨ですね」とか、いうぐあい。雨にもいろいろある。
この国の代々の王様は、気前がよすぎて、自分のもっているものをみんな国民に分け与えてしまった。お城さえも、いまや、千人の子どもたちとその家族がくらしているのだ。
だから、今度の王子が、即位して、小さな王さまになったとき、みんなに分けてあげられるものが何もなかった。
それで、小さな王さまは、生まれた時からいっしょにいる小さな竜といっしょに、空に蓋をするボタンを探して冒険の旅に出ることにした。
……ボタンってなんだろうね。
挿し絵の、小さな王さまのあしもとから、王さまの顔を見上げる小さな竜のしぐさが、ちょっと子犬っぽくて、たまらない。
ほんとに王さまと竜とは、小さくて、頼りなくて、心細い感じなのだけれど、小さいと小さいが合わさると、ちょっと、すごいことになっているじゃない。
とぼけていて、かわいらしくて、かっこよくて、ちょっとやさしい。
うれしいのは、
もちろん、最後にはちゃんとおうちにかえってくること。
王さまなのに、千人の子どもたちに混ざると、どれが王さまだかわからなくなること。
千人のおかあさんの作るホットケーキをみんなで分け合ってたべること。
なによりも、歴代の王さまのなかで、この王さまが多分一番しあわせだ、といえること。