『猟人(かりうど)たちの四季』 フセーヴォロド P.シソーエフ/岡田和也(訳)

 

猟人たちの四季―極東ロシア・アムールの動物たち

猟人たちの四季―極東ロシア・アムールの動物たち

  • 作者: フセーヴォロド・P.シソーエフ,森田あずみ,岡田和也
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2011/07
  • メディア: 単行本
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ロシア極東、アムール川流域の森を舞台にした、猟人たちの一年間の物語である。
秋の日、猟師イヴァーン・チモフェーヴィチ・ボガトィリョーフのもとに、狩猟学者が訪れて、狩猟組合の伝言とともに、毛皮用、生け捕り用に捕るべき獣の種類や数を告げる。
そうして、イヴァーンを長にして、弟や息子たち家族中心の猟師隊の季節が始まる。


動物たちや冬の自然との厳そかな渡り合い。
猟師小屋に迎えてうれしいのは喜びをもたらす若いお客さんだが、ときには、短銃を隠し持った怪しい招かれざる客もやってくる。
猟師たちと、密猟者とのせめぎあいと顛末も気になった。
夏の山では、山に迷う子どもたちも現れて、こちらも気がもめるのである。


物語は、どちらかと言えば素朴で、驚くような展開はさほどないと思う。
一つ一つのエピソードは、起こった出来事よりも、言葉の通じない自然や動物たちへ寄せる静かな敬意がにじみ出てくるようで、ユーモアのある場面でさえも、厳かな気持ちになるのだ。
殺される動物への中途半端な同情の言葉が一切ないことも、よかった。
猟師たちも森の一部だ。
「猟師たちは、火を囲んで車座になり、愉快に冗談を飛ばし合っていた。森にせまった彼らの胸の中で、太古からのやみ難い狩猟に対する情熱が目覚めつつあった。」
厳しい猟師の暮らし、と思うが、彼らの素朴で深い喜びは、おそらく別の場所で生きる人間には得られないものであろうと思う。
誰もが望んでも得られるとは限らない特別の知恵を(叡智を)特別の場所から与えられた人たち、と思う。


とはいえ、幼い時から父とともに山に入り、山で生きる術を身体で学んできた若者たちが、町での暮らしを求めて、山を下りようとしているのも事実なのだ。
そして、森の動物たちの姿が変わってきているのも。狩猟学者などが綿密に調査して、毎年狩るべき動物の頭数を厳格に決めていても。


でも今は。
季節季節の森の姿の美しい描写を、色を、音を、匂いを大切に味わっている。
「みずみずしい葉の匂いがし、ツグミやムシクイのよく通る鳴き声が森にひびき渡り、キスゲの大きな黄色い花が草の間で炎のようにきらめいていた。」
こんな描写に出会うとき、この風景の中を無言で歩く人たちは、わたしには聞こえない響きの言葉で、森と交信しているようにも感じられて、読みながら息をひそめてしまう。