8月の読書

8月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2191

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)感想
14通の手紙には、音がない。もっと確かな音を二人だけに聞こえる方法で聴いていたのではないか。互いにたった一人でいるしかない一人と一人が、この十四通の中で、ぴったりと寄り添い合っている。儚そうで、何よりも崩れにくいものが、ここにある。視力を失った人と自ら瞼を閉じた人とは、内側の世界を遥か遠くまで見晴るかしている。
読了日:08月30日 著者:小川 洋子,堀江 敏幸
図書 2019年 09 月号 [雑誌]図書 2019年 09 月号 [雑誌]感想
エッセイ『秋の蝉』(朽木祥)を読む。切り通しから始まり界隈にあまりにもさりげなく存在する重要な史跡、古い地名や言い伝えなど『月白青船山』のガイドのよう。鎌倉という極めて重要な登場人物の人物紹介でもある。アイルランドに通じる「似た感覚」にも惹かれる。今頃、かの地はきっと蜩の声がいっぱい。いつか歩いてみたい。
読了日:08月29日 著者: 
きみの町で (新潮文庫)きみの町で (新潮文庫)感想
「子どもの哲学」七つのテーマに沿った小さなお話は手をつないで、東日本大震災を巡る掌編『あの町で』をぐるりと囲むように配置されている。最後から二番目の物語の中の「…どうか、生きることを嫌いにならないで」こういう言葉が自分自身のために、他の誰かのために、ほろりと出てくる学問が「哲学」なのだろう。いいなあ、と思う。
読了日:08月27日 著者:重松 清
Wonderful Story(ワンダフルストーリー) (PHP文芸文庫)Wonderful Story(ワンダフルストーリー) (PHP文芸文庫)感想
(名前の一部が)犬になった、あるいは犬になりやすい名前(!)をもった現代の著名作家たちによる、犬絡みの作品を寄せたアンソロジー。それぞれ個性的な作品だけれど、人間の物語に、何も知らずに素直に巻き込まれてしまう犬たちが不憫であったり愛しかったり。『パピーウォーカー』『イヌゲンソウゴ』など、連作にならないかなあ。
読了日:08月23日 著者:伊坂 幸犬郎
荒野にて荒野にて感想
五歳馬ピートが始末されることになったとき、調教師デルの下で働いていたチャーリーは、矢も楯もたまらずピートを連れて逃げた。ピートはチャーリーの似姿というよりもう一人のチャーリーのよう。ピートを全力で守ることは、裸で世の中に放り出された自分自身を守ることでもあっただろう。チャーリーの不器用な一途さが心に残る。
読了日:08月22日 著者:ウィリー ヴローティン
オーブランの少女 (創元推理文庫)オーブランの少女 (創元推理文庫)感想
舞台である国も時代もばらばらの五つのミステリーだが不思議な統一感がある。どれも「ここではないどこか」あるいは「むかし、あるところ」の物語だからだ、と思う。それぞれの物語には、驚くような仕掛け(?)があるが、何よりも、雰囲気に酔う。細かいディテールに魅せられる。一作読むごとに、こんな物語をもっと読みたい、と思う。
読了日:08月18日 著者:深緑 野分
みすず 2019年 08 月号 [雑誌]みすず 2019年 08 月号 [雑誌]感想
連載:『戦争と児童文学8 核戦争を止めた火喰い男と少年の物語 『火を喰う者たち』~祈りは奇跡を起こすか』(繁内理恵)を読む。『火を喰う者たち』の少年たちの反乱の意味の違いなど、圧倒される思いで読む。物語に祈りがあるなら、この評論にもまた祈りがあると思う。
読了日:08月16日 著者: 
火を喰う者たち火を喰う者たち感想
(再読)祈りってなんだろう。奇跡ってなんだろう。絶望的な状況のなかで諦めないこと、投げないでいる事。日々をただひたすらに生きること、暮らすこと。そういうことだったのではないか。明日、世界が終わるかもしれない日に、それができるってだけで奇跡のようじゃないか。
読了日:08月15日 著者:デイヴィッド・アーモンド
パリンプセスト (海外文学セレクション)パリンプセスト (海外文学セレクション)感想
幻想的で、グロテスクな言葉や文章が、美しい皿に乗せられて、目の前に差し出されてくるが、それらが本当に意味するものは、なかなかはっきり見せてもらえない。こちらの手のなかでするりと身をかわして逃げていく。まるで鰻みたいだ。悪酔いするような旅だったが、物語が終わるときに見えていたのは、明るさの兆しではないだろうか。
読了日:08月05日 著者:キャサリン・M・ヴァレンテ
若きウェルテルの悩み (新潮文庫)若きウェルテルの悩み (新潮文庫)感想
ウェルテルが自分の先行きを(うすうす)考え始めたのは、ことによったら、ロッタに出会う前からだったのではないか。最後のロッタへの手紙は、ただもう不快なだけだった。愛する人にどうしてあのような手紙を遺せるのか。彼の純愛を疑う。彼が愛していたのは本当にロッタだったのか。自分自身だったのではないか。
読了日:08月02日 著者:ゲーテ

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