ナゲキバト
ラリー・バークダル
片岡しのぶ 訳
あすなろ書房
★★★★
両親を交通事故で亡くした少年ハニバルが祖父ポップと一緒に暮らし始めた9歳の夏からクリスマスイブまでの5ヶ月間を回想形式に綴る。
優しい祖父は少年にどのように生きるか、本当に大切なことは何なのか、説きます。
ちょっと理屈っぽい気もしますが、良い本でした。
表題「ナゲキバト」とは、ハニバルが祖父に内緒で初めて銃で撃ち落した鳥の名でした。
その結果どういうことになったのか。祖父はどうしたのか。
このエピソードが、章ごとのほかのエピソードと響きあっていきます。物語の最後までずっと。
また、いつもお話をしてくれる祖父だったけれど、そのお話のなかに「兄弟の話」がありました。
サイドストーリーだと思っていたこの話が、衝撃の事実に繋がっていきます。
少年は今思春期の入り口にさしかかろうという頃。
子供時代と別れを告げ、大人になろうという年頃。
子供だからこその好奇心や恐怖心は、甘美でどこか懐かしいのですが、
そこには危険な罠がある。
たぶん大人になる頃、出会うたくさんの嘘やごまかし、不正・・・
誰もが多かれ少なかれ経験するのではないでしょうか、暗い衝動を・・・苦い涙を・・・
孫に、責任の重さを説く祖父。
ポップの「優しさ」は、決して、押し付けないし、荒い言葉もないけれど、厳しいものです。ポップは自分たち人間を見守る大きな存在について説きます。
このあと何を選ぶのか、ハニバルは自分で決めなければならない。
何処に向かって歩いていくのか、その分かれ道まで、ハニバルを連れて行きます。そして、彼に任せます。ただ、黙ってずっと見守りながら。
たとえ残酷なことでも、暗いところでも、一人で行かなければならないところがあるのです。
一人で行かせる深い愛情。子供を前において、こんな愛し方ができるだろうか・・・
たぶん人は罪を犯すもの。だけど、優しく見守る人の存在がそこにあるかないかで、なんとその後が違ってくることか。
ハニバルの友達チャーリーのことを思うと心が痛みます。
9つの章のなかで、我慢強く繰り返されるおじいさんの教えは温かく、深いです。
そして、この5ヶ月、さまざまな悲しみを乗り越えて、ハニバルは成長します。
最後の章では泣いてしまいました。
この本は、ハニバルからポップに対する花束のようだと思いました。
とても静かな、薫り高い花束でした。
心がゆっくりと澄み渡っていくような読後感でした。