銀二貫

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)


始末、才覚、神信心。店を大きくする商人の心得だそうだ。
大阪の寒天問屋の主、和助は、天神様に寄進するはずだった銀二貫で、「仇討ち」を買ってしまう。
親の仇と追ってきた侍に斬られた父の前、刀の下に立ちはだかった少年の命を銀二貫で買ったのであった。
銀二貫は大金、庶民が倹約して地道に働いて十年二十年かけてやっと貯めることのできるお金なのだそうだ。


侍の子は、名を捨て、武士を捨て、和助の店の丁稚となる。
少年は成長します。
彼の根からの真っ直ぐさ、彼を見守る和助をはじめとする大人たちのおおらかで温かなまなざしが、硬かった人の心もほぐし、少年の未来を清々しく開いていきます。
それは、周囲を巻き込み、めぐりめぐって、人々の大きな幸につながっていくようで、何度も心温められました。
人との繋がりがどんなに大きな財産であることか。どんなに大きなエネルギーに変わることか。
いや、そんな大層な言葉が恥ずかしくなるほどに自然に、当たり前に互いを気にかけあう輪に、気持ちが素直になっていく。洗われるように。


銀二貫、最初から天神様のお金だったんだなあ。そして天神さまはお金をこのようにまわしてくださるか。
お金の話がこんなにも清々しいのは、大阪という土地柄もあるのか。
「敵わん」大阪人の心意気である。
上質な糸寒天でこしらえた練り羊羹は、こんな口どけであろうか。こんなすっきりとした甘さであろうか。そんな思いで読み切った。