三島由紀夫レター教室

三島由紀夫レター教室
三島由紀夫
(挿画が山本容子さんだ〜。うれしい♪)
ちくま文庫
★★★


三島由紀夫先生、

最初に白状させていただきますと、先生の御著書は、今日までただの一冊も拝読しておりません。
先生の名を覚えたのは、むかし、国語の試験のために、「三島由紀夫」という名と「金閣寺」というタイトル名を反射的に結びつけられるようにしておく練習の成果でした。
(私には、滝沢馬琴吉田兼好も、三島先生も、みんなひっくるめて「文学史のヒト」です。)
先生の御著書はこの本が初めてです。

最初、この本は、手紙にまつわるエッセイ本だと思っていたのですが、
よそよそしい文学史に名を連ねる先生がこんなにおもしろい小説をお書きになる作家様とは全く存じませんでした。

この本のなかで手紙をやりとりする男女5人は、名前からしてふざけていますが、性格も癖ありすぎです。
5人で素晴らしい手紙をぐるぐるやりとりしているわけですが、それぞれに本心を隠しているのが可笑しい。
そして、隠された本心が丸判りなのが、また可笑しい。
そうなんですね、先生。
手紙って、本当に言いたいことをオブラートにくるんで、絢爛豪華な嘘八百で飾り立てるものなんですね。よくわかりました。
でも、絢爛豪華は、薄っぺらいやら、わざとらしいやらで、ちゃんと本心が伝わるようにできているんですね。よくわかりました。
さらに、本心だけではなく、お里まで知れる、ということになりかねないのですね。これもよくわかりました。
そう思うと、おそろしくて、手紙など書けなくなってしまいますが、この本を読んでいる限り、わたしは一読者ですから、
はるか高みの見物で、安心して、くすくす笑っていられるから、気楽なものです。

5人の中では、氷ママ子さんが、ちょっとお気に入りでした。
彼女は、根性悪くて強烈といいますが、、悪女というには、隠してもぼろぼろとばれてしまう本音が、なんとなく間が抜けていて、結構かわいいおばさんではありませんか。〈お友達にはなりたくないけど)
彼女から丸トラ一に宛てた二つの電報、ステキです。
  >氷ママ子より丸トラ一への電報
     クタバッテシマエ
   氷ママ子より丸トラ一への電報〈次の日)
     ハナシアリスグコイ

ママ子さんに比べたら、隠れキャラ(?)の山トビ夫夫人のほうが百倍凄みがあります。
彼女の狡猾さに比べたら他の5人の手紙など青二才のお手紙交換ごっこではありませんか。
悪女になるなら、あそこまで極めないと♪と思います。

最後に、先生は、「作者から読者への手紙」〈これ、あとがきですよね)のなかで、
  >私の名前はどういうものか、
   「三島由紀夫」というのを、「三島由起夫」とまちがって書かれることが多い。
   私は由紀夫であって、由起夫なんていう、誰も知らない人物ではない。
   「紀」を「起」とまちがえるだけでも、相手の心証を傷つけること大なるものがあります。
と、書かれているのが、なんだか可愛くて笑ってしまいました。
そして、相手を貶めるために、わざとこのような間違いをする人がいるとしたら、この5人のうちだれだろう、と人の悪い想像をして楽しんでいました。(なぜか、5人ともみんな当てはまりそうでした♪)

さて、私が、こんなふざけた手紙を書けますのは、三島先生がご他界なさって、40年近い歳月がたっているからです。
さらに、先生は雲の上のお人すぎて、私にはあまりに遠い存在だからです。
ですので、おしかりを受ける心配をせず、安心して、軽口をたたくことができました。
遠いどこかでお怒りでしょうか。お許しくださいませ。(でも、きっとわたしのような若輩者の言葉など歯牙にもかけてはいらっしゃらないことと思います。)
                                            ぱせりより。