『復讐の女神』 アガサ・クリスティー

 

 『カリブ海の秘密』で事件解決のために、マープルと協力した、あの人が亡くなった。
マープルへの遺言は、思いがけないものだった。「ある犯罪」の捜査をしてほしい、解決の暁には相当額の遺産を贈与する、という。
しかし、その犯罪については、具体的なことは何一つ知らされない。「解答の鍵を与えないでクロスワードを解けというにも似ている」
数日後、マープルは、故人からの招待で、「大英国の著名邸宅と庭園」めぐりの旅に参加する。
この旅の行く手に、「犯罪」が見えてくるのか、あるいは、ツアー参加者のなかに、なんらかの鍵を握る人がいるのか。
解答の鍵なしのクロスワード、ちょっとおもしろいではないか。さて、どこから手をつける、ミス・マープル


カリブ海の秘密』を読んでいなくても問題なく楽しめる物語だけれど、読んでいれば、懐かしい登場人物のその後の消息を知れて、なお楽しい。
ことに、もっともっと知りたかった人のことを今、いろいろな角度から知ることがてきたのはうれしかった。やはり、ただ者てはないのだ。亡くなったあとの、あれこれの仕掛け。どんな思いでこんなにも周到に準備したことかと。もう会えないのは寂しいことだ。


合言葉はネメシス(復讐の女神)。
物語のテーマは「愛」(それも、おそろしい愛)
それだけでも、ダイナミックな感じがするけれど、物語のクライマックスは、舞台劇のように印象的だ。奪われた命をおもえば、ここで「愛」という言葉を出されても納得はできないけれど。


最後に、マープルに、約束の遺産か与えられようとしている。ここが好き。穏やかなマープルのなかから、元気な妖精が飛び出したようで、彼女のことがますます好きになる。