- 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1993/10/01
- メディア: 新書
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「僕」は、インドで行方不明になった友人を探している。
わずかな手掛かりから手掛かりを便りに、インドの都市から都市へ、旅を続ける。
主人公の「僕」は何者なのか。
また、探している友人は何者なのか。
「僕」とはどういう関係で、なぜ「僕」は友人を探す必要があるのだろう。
何もかもがあまりに漠然としていて、物語に向かって疑問を投げかけても、なぜかはぐらかされるような気がするのです。
この頼りなさ、登場人物たちの影の薄さが、独特の雰囲気を作っています。
尋ね人が見つからないのは、相手が見つかりたくないと思っているからだという。
もしかしたら、「僕」はたずね人を、本当はみつけたくないのかもしれない、と思う。
もしかしたら、探している方が、本当は探されている、ということもあるのかもしれない。
旅先のあちこちの街角の独特の匂い、
通り過ぎる人々の印象、
湿度のある重たい空気感をインドという国に重ねます。
旅行者からごっそり巻き上げようとするタクシーのドライバーのずるい顔、
安売春宿に現れた少女のひっそりとした立ち姿、
少年の肩に乗った占い師の指が語る未来、
修道院の図書館で見た夢のなかの男、
あちこちで意味深長に出くわすのが死んだネズミ。
どの街角にも、どの出会いにも、なぞなぞのような問いかけがあり、答えのようなものがあり、
でも、実際、本当は何を問いかけているのか、本当は何を答えているのか、よくわからない・・・
様々な出会いがオムニバスのように連なり、静かなリズムになっています。海の波みたいな感じが心地いい。
このままずっといくのかな、と思っていると、終盤に天と地がひっくり返るような驚きを味わいます。
それなのに、まるで、それは一種の発作のようなものですよ、もうなんともありませんよ、と言わんばかりにおさまっていくのです。
また静かに波のリズムに身をゆだねます。
でも、もうわたしは目が覚めてしまって眠れない。
波は寄せて返して寄せて返して・・・だと思っていたら、返して寄せて返して寄せて・・・だったんだね。
いや、そもそもこの物語のすべてが大きな夢なのかも。
これは不眠症の物語だそう。作者の不眠症がうつってしまったかもしれない。