『潟湖(ラグーン)』 ジャネット・フレイム

潟湖(ラグーン) (エクス・リブリス・クラシックス)

潟湖(ラグーン) (エクス・リブリス・クラシックス)


沢山の短編は、作者の自画像のいくつもの切れ端だろうか。
それは少女の姿で現れる。
実際の主人公が大人であろうが、子どもであろうが、私が見ているのは、まだあどけないくらいの少女だと思うのだ。
季節は・・・たとえるなら、初夏が一番似つかわしいかな。青い空と木々のざわめき、草の匂いと鳥のさえずりに満ちている。
物語は、清潔なくらいに美しい絵になろうとしている。
・・・でも。
でも、突然に、すとーんと突き落とされるのだ。暗い暗い淵に。
突然? 本当は予感がしていたよね。それがあるはずだって。何だかわからないけど、あるって。ざわざわしていたよね・・・
澄んだように見える空気の一粒一粒の中に、異質な分子が混ざっているような感じがしていた。


少女が見ているのは冷たい死なのだ。しかも、それは自分自身の死ではない。
自分の大切なものが手の届かないところに行ってしまう・・・
彼女は、死に取り残される。ひとりぼっち、救いようのない孤独。
悲しみよりも切羽詰るような恐怖を抑え込むようにして、自分のまわりに、必死で美しい絵を作り上げているように見える。
作り上げつつ、失敗に終わるだろうことを知っている。そういう物語と思った。
彼女が縋り付くのは控え目な狂気。それは明るくみえる、でもそれによって救われることはない。
それから、彼女が縋り付くのは物語だけれど・・・
死のイメージは、彼女にとりついて離れない。それとも彼女のほうで放すことができないでいるのか。


微妙に姿を変えて、繰り返す波のように、物語が打ち寄せてくる。ずっと打ち寄せてくる。
空に鴎。キール、ケール、帰っておいで、と呼んでいる。