『やまの動物病院』 なかがわちひろ

 

まちの動物病院は、山のふもとの一軒家。
まちの先生のところには病気の動物はたまにしか来ません。たまにどころか、この本を読んでいる限りでは、たった一人ではないだろうか。やっていけるのかなあ、と心配になってしまう。
夜がきて、まちの先生が眠ってしまうと、昼間寝てばかりいた猫のとらまるは忙しくなります。やまの動物病院が始まるのだ。
閑古鳥のまちの動物病院とちがって、やまの動物病院には、始まりから終わりまで患者さんが次から次。
コンコンがとまらないきつねの子ども、手がガサガサひりひりするモグラ、のどをいためたカッコウや、蹄に小石をはさんでしまったカモシカのぼうや……
とらまるは大忙し。昼間の入院患者さんまで巻き込んで。
それぞれの動物たちか抱えたそれぞれらしいトラブルが、申し訳ないがおかしい。とらまるの診断もおもしろい。
背中でもおなかでもいいからちょっと撫ぜさせてくれないかなあ、と思うような、ころんとした体つきが魅力的なとらまる先生、こうみえて、なかなかの名医なのだ。


まちの先生の患者さんもとらまるの患者さんも、みんな先生を頼りにしているし、感謝している。
何よりも、夜間診療のやまの動物病院のことを、昼間のまちの先生は何も知らないのが楽しくて、読者としては、とらまる先生の共犯になったような気分で、にっこりしてしまう。