『トランペット』 ウォルター・デ・ラ・メア

 

『トランペット』
幽霊を見るため、真夜中の教会に二人の男の子が忍びいる。
国教会の牧師の息子と、非国教徒の継父を持つ村の少年。大人の事情は子どもたちの態度にも伝染している。ひとりはもう一人を見下し、蔑んでいる。もうひとりは、自分を見下す相手に対して怒っている。
一見仲良さそうに一緒に行動している二人の不愉快な会話ときたら。
本心では二人、自分にないものをもっている相手に憧れている。「愛情と嫉妬と軽蔑が三つ巴で際限なく心にせめぎあっているのだ」
少年たちが押し隠した素直で繊細な愛情が垣間見えると、ほっとする。閉ざされてねじくれていく心と、夜中の教会堂の冷たさと闇の深さに、震えそうだから。
教会には巨大な天使象がいて、トランペットを手にしているが、少年は「天使はトランペットを吹けないようにされている」と思っている。
二人の少年は、天使のトランペットをみつめている。このトランペット、どういうものなのだろう。トランペットは鳴らすもの。トランペットが鳴ったとき(鳴るのか)、何が起こるのか。少年たちそれぞれにとって、トランペットを鳴らすことはいったい何を意味するのだろう。


『お好み三昧――風流小景』
そんなことしたらおしまいだ、そのつけの払いはあまりに大きいぞ、ということは忘れて、通人ぶって思い切り散財(しかも人の金で!)できたら、きっといい気持ちだろう。
主人公が次々にデパートの高級品の売り場を渡り歩いていく。
その品々の珍奇さ、美しさに息を呑む。この品々、クラフトエヴィング商会あたりが作品にしてみせてくれないかな、と密かに思う。


収録されているのは七つの物語だけれど、前作品集『アーモンドの木』と違って、幽霊や精霊たちが闊歩するようなお話はなかった。それなのに不思議な(不気味な)物語を読んだと感じている。幽霊より生きた人間のほうが不気味なのは、ないものを人は想像でつくりだしてしまうからだろう。あるものを想像でゆがめてしまうからだろう。
何も不思議なものなどないはずなのに、何かあるような気配。何かが聞き耳をたてているよう。