『87歳、古い団地で愉しむ一人の暮らし』 多良美智子

 

夫婦と子供三人、新築で入居した団地は、半世紀以上たてばずいぶん古ぼけてきた。それでもずっとここで暮らしている。
子どもたちがここから巣立っていき、七年前には夫を見送った。その後はずっとひとり暮しだ。
ふんだんな写真とともに、著者・多良美智子さんの一人の暮らしを紹介したエッセイである。
老いていくこと、住まい方、健康、食事、着るもの、習い事や趣味のこと、お金の使い方、人との付き合い(距離感)、読書などなど……


自分の暮らしに直ちに参考になることはなさそうだけれど、おりおりページをひっくりかえしたりしながら、この本を読むことはほんとうに楽しかった。
それは、まず、最初の写真、著者の住まう部屋の食器棚に惹かれたから、かも。納まっている品々の間には十分な隙間があることに。隙間がなんとも心地よい。ゆとりかな。
食器棚も、キッチンの棚も、部屋全体も。
隙間は、著者の歩き方にも、人との付き合い方にも、そして、一日の過ごし方にも、通じている。
何をだれとどこで、ということよりも、(そのときに)どのくらいの間をもてたか、ということのほうが大切なんじゃないか、と感じるほどに。


本文中にこんな言葉がある。
料理本も好きです。レシピはそのまま作ることはないけれど、エッセンスをいただきます」
ああ、そういうことだな、と思う。
わたしも、この本からエッセンスをいただく。エッセンスは「隙間」だ。隙間の、気持ちよいリズムで、呼吸させてもらうため。


著者は、お孫さんとともにYouTubeで、日々の暮しを発信しているそう。「Earthおばあちゃんねる」、登録者数は六万人を越えるとのこと。