『小さな白い車』 ダン・ローズ

 

午後二時に最悪の気分で目覚めたヴェロニクは、友人のエステルに電話したあと、テレビでダイアナ妃の事故死のニュースを見る。そして、昨夜のことが蘇る。
酔っぱらったうえにラリって、「ゆっくり気をつけながら、車を出した」のだ。そして、あのトンネルに入って……思い出した。それは起こった。
「あたし、プリンセスを殺しちゃった!」


それでどうするか、というと、まず寝てしまうのだ。
それから、証拠隠滅をはかろうとするのだ。
そこで、すんなりと協力しようとする友がいるのだ。


自分が一番大事で、無責任で、その場しのぎの計画しかたてられないヴェロニクをはじめとして、彼女とくっついたり離れたりの恋人(?)ジャン・ピエールも、彼女の友人エステルも、その周りの人たちまで、それぞれ程度の度合いや傾向は違うものの、ひとことでいえば、かなりいかれている。
こちらが常識、とも意識しないくらいの些細なあれこれを、軽く飛び越えていく登場人物たちを眺めていると、あっけにとられてしまう。
宇宙人かな。


さすがにそれはまずいんじゃないのか、との、醒めた友人のアドヴァイスに、そうそう、と頷きかけたところで、ちがう、そこじゃないだろう!とわめきたくなったりして、あれ、いつの間にか、わたしムキになって。


いかれているのはわかっているのだけれど、彼らがちらっと見せる柔らかさが、なんだか愛おしくもある。
ほんとうはとても寂しがり屋でやさしいのかも。
そこに気がつくとは、と思うほどの小さな場所に寄せる思いに触れるとき、そういう気持ちが別の部分にも発動されれば、もうちょっと世渡りが楽になるんじゃないか、と思う。だけど、世渡り上手にしていたら、そういう小さな場所にはきっと目がいかないだろう。見たとしても……何の気もなく忘れるかもしれない。


彼らは、町の片隅で、その日その日をなんとかやっている。いろいろなことが(お金だけではなく)自転車操業で忙しそうだ。ほんとうにもうちょっとうまいことやれないものか。
だけど、ちょっと羨ましいのは、彼らのそれぞれが大切に温めている、それぞれの夢。胸の中に持っている堅固な城が目に見えるようだ。
幸せな人たちなのかもしれない。