『みしのたくかにと』 松岡享子

 

「なんのたねかわからないけれど、まあ、にわにまいてみよう」
と、ふとっちょおばさんが種をまくと、近所の人が口々に、「それはあさがおのたねですよ」「それはすいかのたねですよ」
どっちでしょう。どっちにしても楽しみだ、とおばさんは
「あさがおかもしれない
 すいかかもしれない
 とにかくたのしみ」
と書いた板切れを種のそばにたてた。
おばさんの庭のそばを、毎日、王子様を乗せた馬車が通る。王子様は立札を(右から左に)読んで、「どういうことだろう」と首をかしげる
繰り返し読んでいるうちに、意味は分からないけれど、おまじないの言葉のような気がして、ふしをつけて繰り返しつぶやく。


王子様は、小さいけれど、大勢の先生について勉強して、物知りだと評判だ。
だけど……
「二十五と三十八をかけあわすことや、ちきゅうからたいようまでは、どのくらいはなれているかということを知っている王子さまでしたが、かえるがたまごをうむ場所や、どんなかたちのそりがよくすべるかということは知りませんでした」
王子さまが知らないことは、お父さんの王さまもお母さんのおきさきさまも知らないことだったのだ。
村の子どもたちみんなが知っているというのに。


このものしりの王子さまと、ふとっちょおばさんがまいた種とが、どういう出会いをするかと言えば……
そして、その出会いをきっかけに、何が起こったかと言えば……


文字を読めたり、25と38のかけ合わせ方を知るようになる前には、わたしももうちょっとかしこかったかな。……覚えていない。なんと嘆かわしいことに。
できることなら、子どもをやり直したい。というのは余計な話。


リンゴの花さく、小川のそばの草の上。たくさんのピクニックのごちそう。大勢の子どもたち。
なんと健やかで幸せな一日。とうれしくなる。
最後のページに書かれている言葉は「いましお」とは読まない、よね。