『じゃがいも―中国現代文学短篇集』 金子わこ(訳)

 

『じゃがいも』遅子建
『銀色の虎』魯羊
『大エルティシ川』邱華棟
『青い模様のちりれんげ』魯羊
『雲の上の暮らし』畢飛宇
『花瓶』星竹
『花びらの晩ごはん』遅子建
『妹、小青を憶う』畢飛宇
『俺にはなぜ愛人がいないんだろう?』東西
『ピンク色の夜』葉弥


中国現代文学短編、八人の作家による10編が収められている。
幅広い作風で、一作ごとに次は何が出てくるかな、と楽しみにページをめくった。
10作ちゅう、七編が農村部を舞台にした作品だったことも心に残る。
広々と続くじゃがいもの畑や、魚が跳ねる大河、熊や虎が隠れ住むかもしれない森などが、目に浮かぶようだ。
中国の人たちの原風景みたいなものだろうか。いや、日本に生まれ育った私までもなぜか懐かしい風景のように思えてしまう。

『雲の上の暮らし』は、都会の高層マンションが舞台だけれど、やはり田舎の物語なのだ。
ここに息子と住み始めた老母は田舎で天蚕を飼う暮らしを懐かしむ。
孝行息子は、大金はたいて天蚕を買い、毎日新鮮なクワの葉が届くように手配するのだ。
都会の新築マンション29階での養蚕の行く末は……


好きなのは、『銀色の虎』『大エルディン川』『ピンク色の夜』だ。
『銀色の虎』主人公の少年が銀色の虎を見るのは死にかけたときだ。自分のすぐそばに立ってこちらを見ている銀色の虎は、死神の使いだろうか。そうだとしても、この光景は幻想的で美しい。

『大エルティシ川』は風景描写が素晴らしかった。
「…オレンジ色の陽の光がブルチン川の上に広がり、あたりは清々しい霧が漂った。大地はかくも神秘的で果てしなく、さらに遠くからの呼び声にわたしは両手を頭の後ろに組んで……」
荒々しい大地を背景に粗野だが温かい父が、息子の頭を軽くぽんぽんとたたくところなど心に残る。

『ピンク色の夜』は、離婚して一人で子どもを育てる母の娘に対する思いの遠さや近さ。ある出来事を境に娘をもう一度まじまじと見直すような感じなど。場面場面のきめ細かく繊細な描写が心に残る。