『王の祭り』 小川英子

 

王の祭り

王の祭り

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1575年、織田信長は、ローマの伴天連より、イングランドという国の女の王エリザベスのことを知らされる。16年の長きにわたって国を保っている優れた女王に会ってみたい、と思うが、イングランドはあまりに遠かった。
同じ頃、エリザベス女王は、東方の金銀溢れる国を治めるという王のなかの王の伝説を聞いて、会えるものなら会ってみたいと思っていたのだった。
この二人は本当に相まみえることになる。どの歴史にも書かれていないそんな事実がほんとうになるには、ファンタジーの助けがいる。もっといえば、いたずら好きな妖精パックによる。そして、パックを動かしたのは、革手袋職人の息子ウィルだったのだけれど……。


女王としてのエリザベスが抱える問題は多い。そこにもってきて、女王の暗殺を企てる輩が現れるが、糸を引くのは何ものか。
一介の職人の倅ウィルだったが、妖精パックともども、この暗殺計画に巻き込まれてしまう。そして、女王を助けて、空とぶ馬車で七年後の日本に逃れるのだ。が、獅子身中の虫もおまけについてくる。
女王暗殺計画から逃れたものの、行きついたのは、1982年の本能寺だった。


イギリスで、女王を巡って着々と進んでいく暗殺ゲームの駒のように巻き込まれていくウィルの動向にハラハラした。ワクワクした。女王の御前で演じる野外劇に酔ってしまう。
そして日本。
戦乱のなかでの出会いと別れ、身分を隠しての脱出劇、密やかに迫る危機。一難去ってまた一難の連続のなかで、イギリスからの一行が無事に元の場所に戻れるかどうか、やきもきさせられた。


忙しい物語のなかで、心に残るのは、名もなき人びとの地道な生きざまだった。
家業の跡を継ぐことがほぼ決まっていた日本の軽業師の娘とイギリスの革手袋職人の息子が、混乱のなかで、自分の望みに気がつくこと、道を開こうと決心することも心に残る。
名もない二人の子どもたち、言葉も通じない二つの国の人たちは、案外似た者同士であったかもしれない。


あっと驚くのは、最後のページだ。……そういうことだったのか!
大きくなった少年少女が、どこかで再会していたらいいのにな、とちらっと思う。勿論、そんなことはあり得ない……
だろうか?
ファンタジーの力を借りて。妖精パックの力を借りて。……あり得る話、と思う。