『ハツカネズミと人間』 ジョン・スタインベック

 

 

ジョージとレニーは、一緒に農場から農場へと渡っていく季節労働者だ。
レニーは大男だが知的障害があり、悪気はないのに、問題を起こしてしまう。ジョージは彼の事を放っておけない。


レニーは、ジョージに「話」をせがむ。何度も何度も聞いて、一言一句覚えてしまっているのに、ジョージの口から聞きたいのだ。
「いつの日か--おれたちは金を合わせて、一軒の小さな家と二エーカーの土地を持ち、一頭のめ牛と何頭かのブタを飼う。そして、土地のくれるいちばんいいものを食って、暮らす」
それは二人がいつか叶える夢なのだ。


だけど、あるとき、笑われた。
農場から農場へ渡り歩く何百人もの男たちを見てきた人は言う。
「……その一人一人が、みんな頭の中に小さな土地を持っている。でもだれ一人、その土地をほんとうに手に入れた者はいねえ」
そういわれて、わたしもあわててジョージとレニーのまわりを見回す。
きっと彼の言う通りなのだ……
過酷な労働のために片手を失い、簡単な掃除だけを当てがわれて老いていくキャンディ。
ある農場主の息子に生まれながら、今は、馬屋番になってしまった黒人のクルックス。
週末には酒を吞み、町の女たちの許で賃金を使ってしまう多くの男たち。
浮き彫りになるのは、渡り労働者たちの、明日のない厳しい生活だろうか。
そして時々は起こってしまう、どうしようもない事件。
ここでも……


何度も語られるふたりの夢はひときわ美しく輝く。
「おれたちは、大きな野菜畑と、ウサギ小屋とニワトリ小屋を持つ。冬、雨が降れば、仕事なんかはごめんだと、ストーブに火をたき、そのまわりにすわって、屋根に落ちる雨の音を聞く」
わたしも、レニーと一緒に何度でも聞きたい。サリーズ川のほとりの木の下で。