『ベルリンは晴れているか』 深緑野分

 

 

1945年、敗戦直後のベルリンは、アメリカ、イギリス、ソ連に分割占領されていた。
アウグステは17歳、アメリカ軍の兵員食堂でウェイトレスをしている。
ある日、戦時中にアウグステを匿ってくれたクリストフが、毒殺された。
彼女は、ソ連の司令部の将校に、容疑者の一人として呼び出される。
アウグステの疑いはすぐに晴れたが、クリストフは誰に、なぜ殺されたのだろうか。
ソ連将校は、ナチスのテロ組織が動いているとみているようだ。
何か事情を知っているであろう故人の義理の甥を訪ねてほしい、とアウグステは要請されるのだ。道連れは泥棒で元俳優のファイビッシュカフカである。


ベルリン市内の移動であり、平時なら簡単にたどり着ける場所だが、市内は破壊しつくされている。
三国の兵士によって細かく占拠されているうえ、ならず者が跋扈している今、道のりは遥かに遠い。


現在進行形の物語の間に、「幕間」として、アウグステの生い立ちの日々(ここに至るまでに起こったこと、出会った人々のこと)が挟みこまれる。ナチスの支配の下で、人の姿、生活が、どのように変わっていったのか。
幕間によって、現在の物語が徐々に膨らんでくる印象だ。色が浮き出てくる感じ。
いろいろなことがはっきりしてくる一方で、わかっていたはずのことがわからなくなってくる。


アウグステの道中は、幕間も含めて、敗戦直後のベルリンの絵地図を描いていくようでもある。不気味な活気を帯びた絵地図を。
そして、思う。この絵地図は、いったいどこの町のものなのだろう、と。いつの時代のものなのだろう、と。
もしかしたら、現在も、そっくり同じ町があるのではないか。近い未来の私たちの町ではないか。
登場した人たちのそっくりさんだって、そこら中にいるのではないか(むしろ、自分自身のなかに?)
何か起これば、あっという間に表舞台に登場しようと、待ち構えているのではないか。
「自分の国が悪に暴走するのを止められなかったのは、あなた方全員の責任です」
戦争中にあまりに多くのものを失い、苦しみ、やっと生きてここにいる人であっても、目をそらすことの許されないこの厳しい言葉を、受け止める用意はあるのか。


混沌の日々、混沌の幾つもの人生。
それでも、アウグステの周辺が、どちらかといえば明るく輝いていると感じるのは、彼女をめぐる人々、集まってくる人々の魅力のせい。それから彼女の読書への憧れのせいだった。


そして、再び……
なぜ、誰によってクリストフは殺されたのか、という疑問を思い出す。
見落としていたはずはなかった。ほかの様々な出来事と同じくらいに印象的だったあれこれ。そのどれが、絡んでいたのか……ああ!!
この物語、今さらだけれど、なんて凝ったミステリーだったんだ。