『マノン・レスコー』 アントワーヌ=フランソワ・プレヴォ

 

 

貴族の次男坊シュヴァリエは、17歳のときに、運命の女マノン・レスコーに出会い、恋に落ちる。その後、彼には、転落の人生が待っている。


世間知らずの純情な青年は、不気味に変容していく。
シュヴァリエには、マノンしか見えない。マノンを守ることが、彼にとって、もっとも崇高な目的、正義になってしまう。
そのために、友人や肉親を利用することも、犯罪に手を染めることさえも、致しかたない犠牲にすぎなくなる。
ただ、愛する人をおもう場所だけを祭壇のように祀って。
彼は懲りない、学ばない。いつでも誰かが何とかしてくれる。困ったときに考えるのは(きれいな言葉をつかっているが)だれにどう泣きついたら効率的か、との計算ではないか。


マノンは、悪女ではない(と思う)
シュヴァリエが信じていた通り、かわいらしくて、ほんとうに優しい人だったのだと思う。(良識はなかったけれど悪意はなかった。)
だから、始末が悪い。
もし、彼女が、もっと計算高く、悪意をもっていたなら……
シュヴァリエの一途さを利用しようとか、奪えるだけ奪おうとか、あるいは、貴族の奥方の座にすべりこもうとか、そんな女であったなら。
そうしたら、いつかシュヴァリエも目が覚めたのだろうか。


そもそもシュヴァリエは、マノンのせいで転落の一途をたどったのだろうか。
もともと持っていた弱さ、愚図さが、露わになっただけではないのだろうか。
マノンに会わなかったとしても、この先も、あちこちでボロを出し続けるような気がするのだけれど。


マノンを、憎いとは思わなかった。
かといって、たいして魅力的とも思わなかった。(どこにどう惹かれるのだろうか)
マノンに出会ったことがシュヴァリエの不幸であるなら、シュヴァリエと出会ってしまったことがマノンの不幸、とも言えるんじゃないか。