『ぼくとニケ』 片川優子

 

ぼくとニケ

ぼくとニケ

 

 

幼なじみの玄太(ぼく)と仁菜は、小学生になると、気恥ずかしさなどもあり、なんとなく疎遠になっていた。五年生になり、仁菜が学校に来なくなり、いろいろな噂が聞こえてきたが、玄太は、目立つことが嫌で、何も言えずにいた。気になってはいたけれど。
そんなある日、玄太が学校から帰ってくると、家の前で、仁菜が待っていた。公園で拾ったという子猫の箱を抱いて。


保護子猫のニケ(仁菜が名付けた)を巡って、玄太と仁菜、その家族たちの日常は慌ただしく変わっていく。
それにしても、生まれてまだいくらもたっていない子猫の仕草のなんというかわいらしさだろう。(ミルクを飲みながらの前足の踏み踏み!)
弱っていた子猫が、元気になり、ぐんぐん大きく、やんちゃになっていく逞しさに目を見張る。
作者が獣医師ということもあり、はじめて猫を迎えるにあたって、まず何をすべきかということや、動物病院での検査や処置の詳しい方法や理由、目的など、詳細に書かれていて、この物語は頼もしい育猫書でもある、と思って読んでいたのだが……それだけに終わらなかった。


かわいい、かわいそう、だけでは、動物を保護することはできない。
子どもだろうが、大人だろうが、中途半端に自分以外の生き物に関わることは許されないのだ。
こんなとき、あんなとき、もし自分だったら、どうするだろう、と何度も考えた。今さら、後戻りすることだけはできない。


玄太、仁菜、それぞれの親たちの、動物に対する姿勢、それぞれの揺れ動く気持ちを読みながら、こちらの思いも揺れ動いていた。
何かが起こるたびに、迷う。いくつもの道があるように思うが、どんな道を選んでも、後悔するしかないような気もする。それでも、選ばなければならない。目の前には、まるごと、自分に判断を委ねられた命がある……

 

……どうしたらよかった? 自分だったらどうした?
どれが正解。なんて言えないのだと思う。ただ、全力を尽くしたことは、きっとどこかに通じている。
夢中になって、とことん考え、今できることをやりきったから、玄太は、それまで言えなかった言葉を言えたのではないか、仁菜は、そこを越えることができたのではないか。
別の命に向き合うことは、自分自身にも向き合うことだったかもしれない。


小さくても大きくても、ひとつの命に係わる責任は、とても厳しいものだと、感じる。
それでも、覚悟と勇気をもって一歩踏み出したときに見えるものは、これまでとは変わるのだろう。当人だけがそれを知ることができるのだ、と感じている。