『マリゴールドの願いごと』 ジェーン・フェリス

マリゴールドの願いごと (Sunnyside Books)

マリゴールドの願いごと (Sunnyside Books)


森の洞窟にはトロルが住んでいる。王様の森番はケンタウロス。子どもの乳歯を集めて回る妖精の女王は始終道に迷っている。ユニコーンの世話係の少年は詰まらないジョークが得意だ。
妖精のお祝いや呪いなんかもでてくる。
そして、お城には、もちろんお姫様がいる。


マリゴールド姫は、寂しい子どもだった。
彼女は生まれてから一度も城の外に出たことはない。
マリゴールドに触れるのは父王だけ。母も三人の姉たちも、小間使いたちも、なぜか決してマリゴールドに触れようとはしない。みんなわざわざ避けているようにさえ見える。
望遠鏡で、お城のテラスにいるマリゴールド姫をずっと見守り続けていた森のクリスチャンは思っていた。
「一日に一回でもいいからだれかにだきしめてもらったほうがいいんじゃないだろうか」と。


クリスチャンが森で暮らすようになったのは、お小言を言う以外に自分のことを見ようともしない家族のもとから家出したからだ。
彼は、子どもが欲しくない人は、持つべきじゃないと思っていた。(ということは、自分の親は子どもをほしがっていない、と感じていたのだ)
子どもはみんな、少なくても一日六回は、ぎゅっとだきしめてもらったほうがいいと思っていた。(ということは、そうしてもらっていなかったのだ)
クリスチャンも寂しい子どもだったから、マリゴールドの寂しさがよくわかるのだろう。


クリスチャンの育ての親、洞窟に住むトロルのエドは、森で見つけた幼いクリスチャンを連れかえる。
それから一緒に暮らすようになるが、ある日、はっと気がつく。「おれは……親じゃないか」
親になること(なっていくこと)、家族であるということ、そして、大切な子をやがて手放す寂しさ。丁寧に描かれるエドの迷いは、わたしにも覚えのあることだ。


身分を越えて惹かれ合っていく二人の少年少女は、自分たち(?)がある陰謀の中心に据えられていることに、危険が迫って居ることに気がつく。
選択肢があるが、どれを選んでも敵の思う壺に嵌ってしまう。
だからといって、自分たちの未来を諦めるわけにはいかない。
ことに、このお姫様、世間知らずではあるが、人を見る目も、状況を読む目も持っている。
彼女の愛読書はギリシア神話である。(座っている椅子の背もたれに冠を引っかけて、夢中で本を読んでいる幼い姫のかわいかったこと)
孤独な姫だったから、大切な本は深く読みこんでいた。本は、彼女の世界を果てしなく広げ、深く掘り下げていたのだ。
行動範囲が狭いからといって、その人の内面まで狭いとは限らない。


ハラハラドキドキの冒険が始まる。
二人の一途さを追いかけて、大団円に向かってひた走る楽しさ。
ああ、おもしろかった、と本を閉じる時、この物語の結びの言葉「今を楽しめ、とこしえに」が嬉しいな。