『ギリシア神話を知っていますか 』 阿刀田高

ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫)

ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫)


ギリシア神話(感想)を読みながら、これは膨らませればすごくおもしろくなる物語のあらすじのよう、と思っていました。
そして、この本『ギリシア神話を知っていますか』は、古今の膨らませ方について書かれた本でした。


はるかな昔に完成し、語り継がれてきた神話たちは、散らばった星の群れのイメージ。
物語をつないだり膨らませたりしたくなる。
夜空の星をつないで、星座をつくり、大熊や白鳥、そして、英雄たちの姿を浮き彫りにしてきた人々を思いながら。


ギリシア神話の同じ物語をテーマにしているのに、モリエール(14世紀)とジロトウ(20世紀)の戯曲「アムピュトリオン」は、まったく違う物語になっているのだそうだ。
時代、作者、そして解釈の仕方などから、社会の姿などを読み取るのは、おもしろい。


ギリシア神話のなかのエピソードを現代の舞台にそっくり移した映画『黒いオルフェ』(マルセル・カミュ監督)から、
神話とは、そもそもどういうものであるのか(神話として意味あること、意味ないこと)を考える。
私は、先に「ギリシア神話」を読んだときに「物足りない」と感じたことなどを思いだした。
足りない、と思うものは、神話として(神話だからこそ)語る必要のないものであったかもしれない。逆に、では書かれているものは何かを読むべきだったかもしれない。


この本の最後に現れたのはシュリーマントロイア戦争の夢を掘り当てた人だ。
「一人の少年の夢が、消え去った世界をまのあたりに再現する契機となる――これほど壮大なロマンはめったに存在するものではあるまい」と著者はいう。
大人になった著者は、熟読する多数の本から、なにがしかの影響を受けることはあるが、
「昔のように胸が弾むような感銘を受けることは少ない」と、自分を振り返る。
身につまされるような・・・
大人になってしまった自分を一瞬寂しいようにも思ったけれど、一方で、子どもの時に出会った本たちが、蘇ってきた。
シュリーマンにはなれなくても、子どものころの読書が、どんな光でこの道をずっと照らしていてくれたのか、と思えば、幸福な気持ちになる。
子どもたちが、子どもであるうちに、胸弾むような読書をいっぱい体験できますように、と願う。