『かないくん』 谷川俊太郎/松本大洋

かないくん (ほぼにちの絵本)

かないくん (ほぼにちの絵本)


感想が書けない。どのように書いても違うような気がする。
「死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない」という言葉に共感しつつ、でも、それはどういうことなのだろう、と考えている。
六十年もの時を経て、そして、来年の桜はもう見られないことを知っていて、それでも、「この絵本をどう終えればいいのか分からない」おじいちゃん(絵本作家)の「分からない」は、私の感想が書けない、というのとはずいぶん違うけれど。


「始まった」という言葉がリアルに響く。(絵本作家のその日を顧みつつ)
六十年以上の時を経て、動きだすものがある。
どこか遠いところと、この場所のこのときに。
ときどき忘れ、すっかり忘れたつもりになっても、やはり忘れてはいない、忘れることができない。
もしかしたら無意識にまっているのかもしれない。はじまりのときを。
なんの始まりだったのか、それはどういうことだったのか、それがわかるのはいつなのだろう。
始まりは長い長い時間をかけて、どこに向かうのだろう。
(その過程を私は生きている)
(「そんなに長い間生きてきても、まだ分からないこと、知らないことがある」ことを「素敵」と呼ぶ少女の言葉を心の内でゆすり味わいながら)


だれかとそれについて話すこともない、たずねることもないのだけれど、
「始まった」という言葉を反芻しながら、もう会うことのできないあのひとこのひとの顔をおだやかに思い浮かべている。
ゲレンデの雪の重なりが深い色になって、両目を通して心に静かに沁みいる。沁み渡る。