別れの手続き

別れの手続き――山田稔散文選 (大人の本棚)

別れの手続き――山田稔散文選 (大人の本棚)


巻頭の『ヴォワ・アナール』から読み始めて、たまげた。
下ネタくらいで驚くような歳でもないが、山田稔さんのエッセイだよね、これ・・・あまりに意外で。
そして、巻末では堀江敏幸さんが、解説を書く。ああ、堀江さんまで・・・。
カルチャーショックです。
カルチャーショック、というのは、書きそうもない人が、下ネタを書いたことではなくて、
下ネタのはずなのに、ちっとも嫌らしくないし、下品でもないこと。
山田稔さんは、下ネタを味わい深くまとめあげる。(クスクス)
そして、堀江さんは、それを極めて端正な文章で解説する。


『前田純敬 声のお便り』や『表札』のユーモアが好き。ことに『表札』はとてもよかった。
どちらも、本来なら苦々しい話じゃないか、と思うのだけれど、
読み終えたときには清々しい気持ちになっている。
いい話読んだなあ、と思う。アクが抜けてしまった、というか・・・
故人もきっと笑ってる。


それから、『82歳のガールフレンド』『シモーヌさん』が好き。
今でいえばきっと「後期高齢期」という時期を生きている人たちだろうに、
彼女たちの美しさ、毅然とした姿勢に、ほれぼれしてしまう。
彼女たちへの敬意と賛辞を、少年のように瑞々しく、少し不器用そうに語る山田稔さんも素敵でした。


表題作『別れの手続き』の別れは、亡くなった人との別れを意味する。
だれかと別れていくとき、双方にとって(とりわけ自分にとって)、気持ちの上でそれなりの決着(?)が必要だろうと思う。
ささやかなものであっても。
この本は、亡き人の思い出を語ったものが多かった。
それを語りながら、一人ひとりの人と丁寧に、山田稔さんは『別れの手続き』を行っていたのだ、と思う。
とても大切な身内であったり、よく知っている(つもりの)知人、束の間関わった忘れられない人・・・
回想のなかで、亡くなった人々をもう一度呼び戻し、思いのたけをつづりながら、
それぞれに相応しい方法・言葉で、きちんと「別れ」を確認するような感じ。
丁寧に語られる別れは、その人と一緒にいた時間と同じくらいの重みを持った大切な手続きだった。