はみだしインディアンのホントにホントの物語

はみだしインディアンのホントにホントの物語 (SUPER!YA)はみだしインディアンのホントにホントの物語 (SUPER!YA)
シャーマン・アレクシー
エレン・フォーニー 絵
さくまゆみこ 訳
小学館


スポケーン族の保留地で生まれ育ったアレックスは、
保留地の中のウェルピニット・ハイスクールから、外(35キロ先)のリアダン・ハイスクールに転校する。
リアダンには、白人しかいなくて、保留地から通っている生徒なんてもちろん一人もいない。


アレックスに「ここ(保留地)を出なさい」と勧めたウェルピニット校の教師の言葉、
「わたしたちは、きみたちにインディアンであることを捨てさせようとした。きみたちの歌や、物語や、言葉や、踊りもな。すべてを捨てさせようとした。インディアンを殺そうとはしなかったが、インディアンの文化を殺そうとしていたのだ」
・・・それだからインディアンは酒におぼれる。酒に殺されている。若者は未来に夢を持つこともできない。

>保留地って、牢獄みたいなものなんだよ。インディアンたちは、保留地にうつされて、死んでいく。オレたちは消えていくんだ。
でもどういうわけか、インディアンたちは、保留地が死を定められた収容所だってことを忘れてしまう


>大勢の仲間のインディアンたちが、ゆっくりと自殺の道を歩んでいるのだ。生きててほしいのに。もっと強くなって、酒におぼれることもなくなり、保留地なんか出ていけばいいのに。

アレックスがリアダンに転校したことによって、
保留地のインディアンたちには「裏切り者」扱い、リアダン校の先生や生徒たちからも異質物(?)扱いされることになる。


そうなることを当然予想しながらもアレックスの望み通りにし、全力で応援しつづけた家族。
あっさり、面白おかしく書いていますが、家族としては相当の覚悟と勇気が必要だったのは確かで、
折に触れて、この堂々とした家族の素晴らしさや作者の家族への誇りが伝わってきます。
読んでいるわたしも、心から拍手したくなります。父さん、アル中だけどね。(でもそれがなんだっていうのだ。)


家族の話にしろ、友人の話にしろ、好きなくだりはたくさんある。
靴底の五ドル、遅刻の日の本落とし、病院で話し込む二人。
ばあちゃんの葬式の日の母さんのあの人への一言、試合の勝利の後に流す別の涙、
点数を忘れて何時間もくりかえす一対一・・・
書きだしたら、次々、次々・・・まだまだたくさん。忘れられない、忘れたくない。
どの場面も、笑いにのせて、さりげなく、実にさりげなく、すっと見せてくれる。
そのさりげない一瞬を忘れたくない、と思うのは、人々への愛情が満載されているからだ。
こんなに踏みつけられ、ぼこぼこにされてなお、人が愛おしい。


学校では、差別や偏見に耐え、白人に対する劣等感を味わい、貧乏であることを隠して、
居住地に戻れば、裏切り者と白い目で見られ、嘗ての親友は敵になり、
孤独に耐えながら、ゆっくりと自分の居場所を築いていく主人公の快進撃(?)がすごく面白くて、楽しいのです。
差別を超えて、友情をものにするのです。やつは人種差別論者だけど、いいやつだ、と普通言える?
そして、ときどきほろりとさせられてしまう・・・


満載の挿絵(マンガ)は作者の筆か、と思うほど、この本の楽しさを倍増させてくれますが、もともと文章がすごくおもしろいのです。
あまりに面白く、軽快に読めてしまうので、この本の中に頻繁に顔を出すシビアないろいろなこともさらっと読めてしまう。
それは、読み流してしまう、というのではないのです。
ちゃんと後に残り、じわじわと広がっていく思いとなって残ります。
それは、たぶん、保留地での深刻な現実と照らし合わせながらも、
ここに書かれている問題が実は、わたしたちひとりひとりにとって身近な問題だからです。
さらに、夢を持つこと、かなえるために行動を起こす勇気の物語でもあります。
知らなかったことも、知って重たくなったものも全部抱えて、それでも、この物語はすがすがしい青春物語なのです。
ずっとずうっと読んでいたい、と思うような。


「おれはスポケーン・インディアンだ。スボケーンという部族の一員だ」とアレックスは言う。
さらに、彼は「バスケ部族という部族の一員でもあるし、本の虫という部族の一員でもある」という。
「ティーンエイジャー族の一員でもある。トルティーヤチップスとサルサ愛好家の一員でもある」という。
そのほか貧困族や愛される息子族や、親友喪失族や田舎のこども族や・・・たくさんの族の一員なのだ。
そう思うと、自分の属さない族を排除していたら、自分の族がずいぶん貧相なものになっていくような気がするよ。


続きがよみたいなあ。
この物語、78パーセントは本当の物語ですって。


☆おまけ
どうしようもないつらいことを乗り越えるしかないなら、アレックスのやり方を真似してみたい。
つまり、毎日の中にあるちょっとした喜びをみつけること。
人生に喜びをもたらしてくれたものたちのリストをつくること。(好きな人、ミュージシャン、食べ物、本、バスケの選手・・・)
アレックスの好きな本の中から未読で、読んでみたいと思ったものは→『怒りの葡萄』『ビッグTと呼んでくれ』『見えない人間』