アムステルダム

アムステルダム 新潮クレストブックスアムステルダム
イアン・マキューアン
小山太一 訳
新潮クレストブックス


モリーという女性の葬儀の場面から始まります。
彼女は死んでいますが、この物語の中では、実にいきいきと生きているような気がします。
この小説のヒロインは彼女です。


彼女の死を悼む四人の男たち・・・夫、嘗ての恋人・・・
彼らは、政界、経済界、マスコミ、芸術家・・・それも超一流、その道では(その道じゃなくても)名を知らない人はいないという有名人4人。
この四人がなんとも人間くさいのです。
ハイソぶっているくせに、やたら姑息で、笑ってしまうのです。
笑いながら、四人のどこかに、自分のいやなところが見えたりして「あらら」とつぶやいたりもしてしまう。
それでいて、彼らには正義感もあるし、几帳面なところもあるし、まあまあ善人でもあるのです。
暖かい気持ちも持っている。
そういうものも全部含めて、すぐ隣にいそうな感じの普通のおやじさんたちです。
ハイソというには程遠い感覚、小市民的で、下町的。
うわっ、リアルだな。
そして、彼らをとおして、ありし日の恋人モリーがみえてきます。
彼らのまわりをひらひらと泳ぎ回っていたモリーは、妖精のようでもあり、恋人というより乳母では?という気持ちになってくる。
死んでなお元気に(?)男たちを手玉にとる彼女、すごい。


これ、コメディですよね? どたばたの狂騒曲ですよね?
読んでいる間は、全然、笑い話だなんて思っていなかったのですが、読み終えたとたん、なんだか作者に担がれたような気がしてしまいました。
深刻なはずのラスト周辺は、もう不謹慎だろうがなんだろうが笑うしかないんじゃないか、と・・・
まじめに読んでいました。見せ場に継ぐ見せ場がおもしろく、夢中で読んでいました。
・・・そうと知っていたらもっと楽しめばよかったわ。


タイトルの「アムステルダム」はなぜアムステルダムなんだろう、とずっと思っていたが、そういうことだったんですね。
そして、死んだはずのモリーが、やっとほんとうに死ぬラストシーン・・・一人勝ちは、あいつかぁ・・・