きかんぼのちいちゃいいもうと

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おとまり―きかんぼのちいちゃいいもうと その2
いたずらハリー きかんぼのちいさいいもうと その3
ドロシー・エドワーズ
渡辺茂男 訳/酒井駒子 絵
福音館書店
★★★★


きかんぼの ちいちゃい いもうと (世界傑作童話シリーズ)以前出ていた一冊にまとまった「きかんぼのちいちゃいいもうと」を三冊に分けたのかな、と思っていたら、
今までの本に収録されていないお話もたくさん入っていました。
以前の本は15話、こちらは三冊で28ものお話が入っているのです。以前のお話も少し加筆修正されたみたい。
挿絵も変わりました。
以前は堀内誠一さん。(→)
仏頂面のゴブリンみたいな女の子が妹です。(でも、そのゴブリンが読んでいるうちにどんどんかわいく思えてくるのが不思議なんですけど)
堀内誠一さんの絵を見慣れた目で、新しい三冊組の本の酒井駒子さんの表紙を初めて見たときには、びっくりしました。
まるで「となりのせきのますだくん」が怪獣から男の子に変わったような驚き。
・・・考えてみればあたりまえでした。
きかんぼ、きかんぼ、というけれど、ほんとはこの子、きっとすごくかわいい子に違いない。
ご近所の人たちも出入りの職人さんたちも、みんなこの「いもうと」がだーいすきなんだもの。
挿絵の影響、おそるべし。


きかんぼのちいちゃいいもうとは、きかんぼになる理由があるのです。
お弁当を持って川に遊びに行って、大きい子達はみんな川遊び。
ひとりだけ小さいから水に入ってはいけない、なんてそんなことがまんしろっていうほうがおかしいです。
さわってはいけないものも、行ってはいけない場所も、してはいけないことも、いもうとの側に立ってみれば、
ただ頭から「だめ」って叱られたら腹がたつのはあたりまえなんですよね。
どうしてそれにさわりたくなったのか、どうしてそれをやりたくなったのか、なんで聞いてくれないのかなあ。
幼いなりに全部理由があるのに。
・・・と言いながら、自分の子育てを振り返ってしまいます。
ああ、あのときもこのときも、余裕がなかった。子どもの気持ちお構いなしに叱りつけていた記憶がよみがえる、よみがえる。
でもでも、家族みんな「きかんぼ」とか「めちゃくちゃむすめ」とか呼んでいるけれど、
この子がかわいくてかわいくて仕方がないのはちゃんとわかっているんです。


その点、おとなりのココア・ジョーンズさんの「いもうと」への接し方はさすがの余裕です。
髪振乱して育児、というところから一歩離れているから生まれる余裕なのでしょうね。
「いもうと」が編んだすばらしいプレゼントのマフラーを喜んだり、掃除機を嫌う「いもうと」の気持ちをどうやって変えるか、
・・・上手、というより素敵、なんです。
よそにおとまりしてみたいけど遠くへ行くのはこわい、という「いもうと」をちゃんとしたお客さんのように招待してくれたりして。
いつもココアを飲ませてくれるカップじゃなくて上等の花模様のティーセットを出してくれて、
客用寝室には特別の「きかんぼの女の人」の絵(!!!)を掛けてくれて・・・
ほんとにいいなあ、こんなお隣さんがいてくれて。
それからおじいちゃんもおばあちゃんも、くつなおし屋さんのブレーキーさんも・・・「いもうと」を見る目の余裕がいいのです。
読んでいると、しみじみ幸せだなあ、と感じられるのです。


そんななかで、「いもうと」のやらかしてくれることは、はらはらもするけど、
「あ、わかるなあ、それ誰かさんといっしょ」と思うことがいっぱい。
たとえば食パンのまんなかだけ食べちゃって窓にして向こうを見ている「いもうと」の図はなつかしい〜。
それから「いもうと」よりちょっとだけお行儀のよい女の子だったもので(笑)、
とてもできなかったことをやってくれるのはなんとも微笑ましいのです。
仲良しのハリーといっしょになると、もう最強のコンビ。
ハリーのお誕生日の日、お茶の時間の前に、戸棚の中のおいしそうなお菓子を目の前にした二人・・・
このあとどうなるか、想像がつくじゃない。
せんたくかごの船も、図書館の子ネズミの話も楽しそう。
そして、いとも簡単に「つもり」の世界に浸れる子どもたちがとてもすてきだ。
この二人は、いたずらもすごいけれど、その気になれば親切で礼儀正しくもできるのです。
だって、「しんせつでれいぎ正しい人たちごっこ」をして、楽しんでしまうんだから、すごい。


一番好きなのは「妖精のお人形」の話。お人形話には弱いのです。これ、結末が大好き。
抱っこして頬ずりして、心行くまで心通わせあえるお人形はどんな姿をしているか、子どもたちとお人形同士は、ちゃんとわかっています。
余計な装飾はやめたいです。
「いもうと」のお人形ロージー・プリムローズのびっくりの姿も、
そうでなければならない理由は本人同士(子どもとお人形)だけが知っているのです。


本の中にちらばったたくさんの擬音も楽しいです。
レインコートに降る雨の音は「しゃら、しゃら。しゃら」、みずたまりの中でながぐつがたてる音は「ぴしゃぽしゃ、ぴしゃぽしゃ」
上等のきれをはさみで切る音は「すく、すくるる、すくるる・・・」
おじいちゃんの銀時計がおしゃべりする音は「ニックノック、ニックノック・・・」
楽しい音をもっともっと聞いていたい。