アーサー王と円卓の騎士

アーサー王と円卓の騎士 (福音館古典童話シリーズ (8))アーサー王と円卓の騎士 (福音館古典童話シリーズ (8))
シドニーラニ
石井正之助 訳
福音館
★★★★


子どもの頃たぶん、何かの形で「アーサー王と円卓の騎士」の物語は読んだのじゃなかったか、と思いますが、
記憶はぼんやり。覚えていません・・・
その後、あちこちでなんとなく読みかじったか聞きかじったかした名前や出来事など、これらもまたあいまい。
名前くらいは聞いたことがあるけれどほとんど知らないアーサー王と円卓の騎士の伝説を少しまとまった形で読んでおきたい、
と思ったのがこの本を手に取ったきっかけです。


アーサー王の誕生(誕生とその後のこと、王となり剣を手に入れる話)と死に挟まれて、名だたる円卓の騎士たちの物語が続きます。
どれもおもしろく、一筋縄ではいかない物語、しかも印象に残るエピソードがたくさん出てくるのですが、
文章は、きわめて散文的。何ひとつ飾りがないのです。
劇的なはずの場面がたくさんありました。
人と人の絡みなど、もっともっと知りたい、と思うのですが、まるっきり味つけされず、素材のままに差し出されたような感じでした。
伝説って、そんな感じなのでしょうか。このそっけなさが逆に魅力になっています。


アーサー王も、さまざまな騎士たちも、美しい乙女たちも、そして、彼らの生き方、考え方、などなど、
読者それぞれの思いのままにいかようにもふくらませることが可能なのだと思います。
だから、アーサー王の物語は、次から次にたくさんあるのでしょうね。
そして、これからもどんどん生まれてくるのでしょうね。
この本もまた、定本というわけではないようです。伝説は、少しずつ形を変えて、幾通りも伝わっているようです。
わたしもまた、読みながら、様々な物語に、いつのまにか自分勝手な肉付けをして楽しんでいました。


精霊降臨祭にアーサー王を中心にして円卓を囲む騎士たち。
ここから、何かが動き出し、騎士たちはそれぞれの冒険の旅に出て行きます。
美しい乙女の導き、騎士同士の力比べ・・・


好きなのは、サー・トリストラムの物語。
心から愛する姫を主君の后にと申し込みに旅だつ場面、悲劇だけれどあまりに美しい最期、など、
膨らましがいのある印象的な場面がとても多いのだもの。