- 作者: 征矢清,長新太
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1977/04/01
- メディア: 単行本
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今年の四月は天候が不安定で、雨の多い月でした。
かおるは、かさをもって駅までおとうさんを迎えに行きます。途中「いろいろ」ありますが、最後にはおとうさんといっしょに安心してお家へ帰ります。
・・・よくあるパターンです。と言っちゃえば実も蓋もないですよね。
「いいなあ」と思う絵本には、わりとありきたりの日々の中からきらめきを探してきて見せてくれるものが多いと思います。
>あめふり ざんざんぶり かさもって おむかえ
びしょぬれ ぼうず なけ なけ
あめふり ざんざんぶり どろっぷ なめて おむかえ
この絵本に初めて出会ったとき、この独特の雰囲気にすっかり魅了されてしまいました。
リンクするのは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。
静かで、イメージは藍色(黒じゃなくて藍色)の闇。そのなかを音もなくすべっていく不思議な列車。
かおると不思議なオレンジ色のねこのコンビは、なんだかジョバンニとカムパネルラを思い出させます。
そして、絵本の色。ピンクや緑が基調のカラーですが、みなくすんだ色合いで、連想するのはやはり藍色の闇なのです。・・・神秘的な感じさえします。
闇のなかをごんごんと進む無機質な列車というおおきな物体。なんだか不安なイメージ。
なのに、中はぽっかりと明るくて、優しい動物達にほっとするのです。
この相反するイメージは、
かおるの中にある相反する気持ち――なかなかおとうさんに会えない不安と、明るい冒険へのあこがれやわくわくとした期待の、両方をあらわしているような気がします。
・・・このキモチはなんだかなつかしい。きゅうんとなる。なぜかなあ。
最後にとりのこされたオレンジ色のねこのせつないようなひとりぼっちの姿がなんともいえないです。
「よかったねえ」で終わってもいいんだけど、そこにちょこんと描かれたねこの絵に惹き付けられます。
最後まで、「安心(happy)」と「不安(unhappy)」を絶妙なバランスでひとつの場面にもりこんでいるのが、たまらない魅力です。