『七つの季節に』 斉藤洋

はじめ、斉藤洋さんが自分の若い日々を振り返ったエッセイ集だと思って読んでいました。
はとを飼う少年、三ツ矢サイダー、田舎の街路灯に飛んでくるカブトムシ…ちょっと懐かしい日本の風景もそこで暮らす人々もリアルで、ああいたいた、こんな人たち、と思うのだ。
そして、安心して読んでいると、そこにちょっと不思議なものがさっと見えたりするのだけれど、「ほー、そんなこともあるのか! こんなものを見てしまったらそりゃあ一生忘れられないよな」と感心していました。
あまりにも自然に現れて、あまりにもさらっと、一瞬で消えてしまうような不思議…ちらりと非日常的なものを見た、けれどもチラッとだったから、その場で人に聞くこともはばかられるような感じ。時がすぎてしまえば、そんなものを見たことさえ本当だったか夢だったかわからないような出来事…

これってもしかして創作?と思い始めたのは、4作目「レッド・キャット・テール」でした。
いくらなんでも普通の人がこんな不思議なことに何度もぶつかるわけないだろう。気づくの遅い(笑)
あらためて、これは7つの短編。
語り手「わたし」(たぶん作者自身がモデルですね)の幼少期から大人になるまで、順をおって7つのささやかな不思議な場面を切り取って見せてくれます。
ここで見える不思議なことは、人の気持ちの持ちように関係があるような気がする。少しぼんやりしていると、どこかでちょっといたずらな何かが、にやにやしながら、この人の目の前をちょっりと横切ってやろうか、と思うのかも。
そして、この不思議な風景のなかに、とても日本的なものを感じます。
死に対する怖さといたわり、やさしさが結晶したようなもの、とか、
少し怖いけど、壊しがたい独特の雰囲気があって美しくて、しかもなんだかユーモラスな光景。

好きなのは「ブレーメンの音楽隊」
  >「この町、何かおもしろいことある?」
   「まあ、ないこともないが、
   あのホテルよりおもしろいところはないかもな」

そりゃあそうでしょう。わたしもそこにとまってみたい。泊まったら、どうか熟睡しないように気をつけよう。聞くべきもの、見るべきものを見逃さないようにしなくちゃね。