『夜のパパとユリアのひみつ 』 マリア・グリーぺ

夜間看護婦のママが留守の間、家に泊まって娘の面倒を見るために雇われた青年が「夜のパパ」。少女はユリア。この名は本名ではない。夜のパパに呼んでもらいたくて少女が自分につけた名前。
この二人が交互に時分の思いや日常のことを書いた本(ただし互いに相手が書いた部分を決して見ないという条件つき)――それが、前作「夜のパパ」だった。 作者マリア・グリーぺの夫君ハラルド・グリーぺの挿絵が素晴らしいのです。ユリアも夜のパパも、雰囲気がぴったりです。
母子家庭の物語、と言ってしまったら「待った、そりゃあ違うでしょ」といいたくなるほど、独特の神秘的で静かで、なんとも言えないくらい素敵な「夜のパパ」と「僕の夜の娘ユリア」の物語がとっても好きです。


で、これは、その続編です。
前作と同様、夜のパパとユリアが交互に書く日記のような本(ユリアは「わたしたちの本」と言っている)です。
前作よりも2~3年あとの物語で、ユリアは大きくなりました。
今ではユリアは「夜のパパ」のことを「ぺーテル」と名前で呼んでいます。
前作に引き続き、ウッラたちには相変わらずいじめられている。だけど、今のユリアはひるむばかりじゃない。ウッラたちの事情を考えるようになったし、どこか超越している。
また、集団のなかで、うまくやっていく方便なども覚えて、…同時により内省的になり、秘密も多くなってきました。
そのぶん、夜のパパとのつきあいに距離感が生まれてきたのも仕方がないかな。
そして、ユリアの家が再開発のため取り壊されることになる。家を救うために二人は力を合わせる。

内容からいえば、前作よりも複雑になっています。思春期のユリアの不安や歓び、自立していく感じなど、しっかり描かれています。その都度ぺーテルが戸惑うのも、よくわかります。
だけど、前作の神秘的な雰囲気がちょっと減ってしまったような気がする。

そのかわりにちょっと気になるお気に入りが小さな男の子エルビス・カールソンです。 彼はこの物語の中で一言もしゃべりません。一見彼無しでも物語の進行には一向に差し支えなさそう。
だけど、ほんとはすごい大役を果たしている。
土の上の太陽。土から最後に顔を出す芽。そして、画家の描いた絵のなかの「あるはずのないひまわり」
黙ってほんの端っこに現れながら大役を果たしてくれたエルビスの存在感がたまりません。
彼の孤独さ、強さ、そして、豊かさ。あのひまわりのまぶしさ。この子の内面はどういうふうにできているんだろう、と想像がふくらんでしまいます。
訳者あとがきによれば、このエルビスを主人公にした「エルビス」シリーズというのがあるそうですが、翻訳されているのかな。探してみたいと思います。

ユリアとぺーテルの友情、そして、いつか友情に発展するだろうエルビスの存在。
静かでゆっくり。そして饒舌ではない結びつきが、素敵な物語です。