『陸にあがった人魚のはなし』  ランダル・ジャレル 

ある日、狩人と人魚が浜辺で出会います。
毎日少しずつ近付いていく二人。
そして、やがて、狩人の小さな小屋でいっしょに暮らすようになります。
そこに、小熊がくわわり、山猫がくわわり、男の子が加わり・・・それはなんとも不思議な家族で、人の常識からも動物の常識からも、もちろん人魚の常識からも、遠く離れた、だけど、とても平和で愛情に満ちた美しい世界。
御伽話のような静けさ。不思議さ。
そして詩のように美しい文章。・・・ところどころ訳が妙な感じで、何度も読み返さないと意味が取れなかったりする部分もあるのですが、そのぎこちなさも含めて、美しくて不思議・・・

この不思議な美しさを高めているのがセンダックの挿絵。ため息が出るくらいに美しい風景。だけど、そこには、いるはずの動物も人間も一切描かれてはいません。
それなのに、この絵の奥のほうに、ちゃんと生きた者たちの気配がするのです。

声をあげたら、この人たちも動物達もすーっと消えていってしまうのではないか、そんなふうに思わされるような、幻想的な世界でした。

いろいろなものをきゅうきゅうと身の回りに集めて、集めたものに首をしめられそうになっている自分を省みたりもしました。
本当に大切なものってこれだけでいいんだよね。