『電柱鳥類学』 三上修

 

 

森林鳥類学や河川鳥類学があるように、電柱(電線を含む)を利用する鳥を研究する電柱鳥類学がある、と鳥類学者、三上修さんはいう。
電線に止まっている鳥たちにはどんな鳥がいるのか。
電線のそもそもどのあたり(垂直方向なら上か下か、水平方向なら真ん中か端っこか)にとまっているのか。
鳥の種類によって止まる場所に違いがあるのか。
なぜそこに止まるのか。
そして、なぜ鳥は感電しないのか。


電柱を利用して巣作りする鳥たちがいるが、鳥の種類によって巣の形も素材も、電柱のどの場所を使うのかも異なる。
巣作りしようとする鳥たちと電力会社の攻防も書かれていて、その大変さに頭が下がる。鳥の巣から電柱を守るのは、人間の暮らしのためだけではなく、鳥を守るためでもあった。


鳥と電柱(電線)の関係を追いかけて、なぜそうなのかということを考えることは(まだわからないたくさんの事も含めて)その鳥の習性や知恵、それからその鳥の歴史(?)を知ることにもつながり、おもしろい。


この本は、まず電柱(電線)の基礎知識から始まる。一言で電線といっているが、用途(その線に何がどのように流されるか)によって、幾つかの種類があることなど初めて知った。


日本の町のそこかしこに電線が張り巡らされるようになってから、まだ150年くらい。鳥たちと電柱(電線)とのつきあいもせいぜい150年くらいでしかない。そんなものなのか。鳥と電線、あんなに違和感なく馴染んでいるのにね。
だけど、いずれ、これらの電線は地中化によって、消えていくのだ、という。
そうだとしたら、電線にとまる鳥は、地球の長い歴史の中で、ほんの一瞬の間にしか見られないものだという。
そんな話を読んでいると、地上から電柱(電線)が本当になくなってしまったら寂しくなるんじゃないか、と思い始めた。
鳥の生活も変わってしまうだろうけれど、人も……電柱のある生活に馴染んでいたんだなあ、と気がついた。
歌詞や詩などに歌われ、絵にも描かれてきた電柱のことが、囲みのコラムにも書かれている。著者、三上修さんが好きな電柱も教えてくれた。
私が好きなのは、田んぼの道の両側に並ぶ電柱。童話のイメージと結びついている。杉みき子さんの童話集『ちいさな町の風景』のなかにたびたび出てきた電柱は、両手を繋いで「はないちもんめ」をしていた。宮沢賢治の童話『月夜のでんしんばしら』では、真夜中に電信柱たちが、ドッテテ、ドッテテ行進していた。