『心の宝箱にしまう15のファンタジー」 ジョーン・エイキン

 

 

15のファンタジーは現代のおとぎ話。
それは例えば……
必ずかなう三つの願い。三人の意地悪姉さん。旅の途中で繰り返される問いかけと答え。長い眠りから覚める丘の上の城。これだけは決してしないという約束……
始まりや途中経過を読めば、それは聞いたことがある、昔話のおなじみ、王道のお話になるのだろうと思う。ところがどうして、この展開をだれが予想できただろう。


それから、ちょっとユーモアのある魔法話なら、アーミテージ家のマークとハリエット兄妹が遭遇する不思議で愉快なお話が三つ。
これはアーミテージ家シリーズのお話で、彼らの活躍(?)を集めた『とんでもない月曜日』という本もあるそうだ。そちらを読めば、そもそも、この一家がなぜ裏庭でユニコーンを飼っているのか、この家の二階になぜ元船長兼探検家の幽霊が下宿しているのかも、わかるらしい。


とりあえず雨露を凌ぐ家はあるけれど、みじめな暮らしを余儀なくさせられている子どもたちの話がいくつもあって心に残った。周囲となじめない寂しい大人たちもいた。老婆、動物たち、壊れかけた道具たちは、彼らにどういう風に関わるのだろう。


古いものを大切にして、たとえば、博物館や専門の人たちに守ってもらいながら長く生きるようなことを、もの自身が果たして望んでいるのか、という問いかけに答えるような、いくつかの美しい物語も心に残っている。
「世の中には、静かにそっとしておかなければならないものがあるんだよ」という言葉の意味を、これらの物語が解き明かしてくれる。


特に好きな作品をあげるなら、『三つめの願い』『からしつぼの中の月光』『十字軍騎士のトビー』かなあ、と思うけれれど、そう思うそばから、あれも、これもと様々な作品の様々な場面が思い浮かんでくる。どの作品も忘れがたい(それぞれ全く違う質の)余韻が残っている。
この作品集のタイトルは『心の宝箱にしまう……』だけれど、ほんとは、しまいたくない。しまうとしても、すぐに取り出せるように、いつもすぐそばに置いておこう。