『ピアノ調律師』M・B・ゴフスタイン

 

ピアノ調律師 (末盛千枝子ブックス)

ピアノ調律師 (末盛千枝子ブックス)

 

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おじいちゃんと孫娘が一緒に暮らしている。
おじいちゃんは腕のいいピアノ調律師だ。
世界的に有名なピアニスト、リップマンさんは、おじいちゃんの仕事を「完璧に調律されたピアノ」と讃え、孫娘には「きみのおじいさんは世界一のピアノ調律師なんだよ」と話す。


おじいちゃんは、孫娘がピアノのおけいこにあまり熱心でないことを残念がっている。
おじいちゃんは、彼女がピアニストになってくれたらいいなあ、と思っているのだ。
でも、彼女は、おじいちゃんのようなピアノ調律師になりたかったのだ。
おじいちゃんの調律の作業を見ている孫娘は、この作業は本当に美しくて、おもしろいと思っていた。
そして、鳴らされる音は、今まで聞いたどんな音楽よりもすきだった。
彼女が感じる「おもしろさ」「美しさ」は、あまりに美しくて、かけがえがなくて、
わたしは、ただこの小さな絵本を読んでいるだけで、しみじみと幸せな気持ちに満たされる。


おじいちゃんと孫娘の毎朝の習慣もわたしは好きだ。
テーブルの上におじいちゃんが用意する美しい色のマグカップや皿、ナプキン。みんな二つずつ。
孫を起こす「フフフフーン」のハミングに、孫はベッドのなかから同じ音の(たまに半音高い)「フフフフーン」で答える。
時が過ぎてやがて逆になる。テーブルを整えて、寝ているおじいちゃんを起こすのは孫娘だ。
役まわりは変わっても、美しい朝のテーブルは変わらない。「フフフフーン」も変わらない。
この屋根のしたに、それぞれにとっての美しさを深く知っている(それはとても幸福なこと)二人のピアノ調律師が暮らしている。