1月の読書

2016年1月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:2931ページ

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)感想
母語とずっと隔たりを感じ続けていたラヒリ。そして、母語から無理やり引き剥がされ続けたアゴタクリストフのことも思う。自分であって自分ではない状態をどうして想像できるだろう。人は肉と言葉によってできているのかもしれない。まるで渇ききった体が水を求めるようにイタリア語をごくごくと飲んでいるようなラヒリ。その姿は、生まれたての赤ちゃんのようだ。
読了日:1月30日 著者:ジュンパラヒリ
片手の郵便配達人片手の郵便配達人感想
牧歌的な美しい情景の中を七つの村に黒い手紙を配る片手の郵便配達人は、まだ17歳なのだ。英雄的な働きを夢見て召集に応じた戦争で、あっというまに左手を失った。無理やり大人になるしかならなかった子どもたち、大人になることもできなかった子どもたちのことが心に残る。著者あとがき『日本の皆さんへ』で手渡された著者の記憶に、どう答えればいいのだろう。
読了日:1月28日 著者:グードルン・パウゼヴァング
もしも、詩があったら (光文社新書)もしも、詩があったら (光文社新書)感想
「もしも」は始まりの言葉。もしかしたら、この本一冊がまるごと、ビナードさんの偉大なる「もしも」なのではないか、と思えてくる。詩は役にたつのか?はっきりと役にたつものだけを残して、そうではないものを捨て去ったとしたら…想像したくない。最後のビナードさんの『眠らないですむのなら』の「ねむり」を大切に(震えながら)味わう。
読了日:1月25日 著者:アーサー・ビナード
黒と白の猫黒と白の猫感想
やることも言うことも割と独りよがりで、偉そうよ。しじゅう苦虫噛みつぶしたような顔の朴念仁。しかし、根は律儀で真面目でちょっとかわいい。(くすっ) 大寺さんの日常は親しい人を次々に見送り続けているようだ。大寺さんは乾いた大地の上にひとりすっくと立って居る樹。立ち尽くす以外できない不器用で寂しい樹なのだ、と思う。その姿に慕わしさのような思いが湧く。
読了日:1月22日 著者:小沼丹
あらしのあと (岩波少年文庫)あらしのあと (岩波少年文庫)感想
戦争で破壊された一番大きなものは人の心だった。戦争は、渦中にも、その前にもあとにも、人びとにとりつき、人びとを変え、不幸にし、なかなか開放しようとはしないのだ。そうしたなかで、作者が人びとのすぐ隣に置いた芸術の存在に気がつく。芸術は、人から人へと、心に小さな灯をともしていくようだ。
読了日:1月19日 著者:ドラ・ドヨング
あらしの前 (岩波少年文庫)あらしの前 (岩波少年文庫)感想
子どもたちはそれぞれに個性の赴くままにやらかしては、驚き、感動し、そして、傷つき、悩み、苦しみ、やがて、それぞれの道へと抜けていく。賢くおおらかな両親の見守りの内に。しかし、これはナチスがオランダに攻め入る直前の物語。人びとの不安が手に取るように伝わってくる。美しい信念よりも祈りの言葉よりも、最後のお母さんの言葉だけが確かなものだった。
読了日:1月18日 著者:ドラ・ドヨング
まんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽんまんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽん感想
寂しいのはどうしたって寂しい。持て余してしまう。だけど、簡単に捨てたり忘れ去ったりしてはいけないような「豊かな」寂しさに出会うこともある、と思う。どかんを中心にした猫の集まりが、そして、どかんの反応(?)が、可笑しい、楽しいのだけれど、それは満月を浴びながら「ほろほろほろ」と歌いたくなる、ちょっと沁みるような可笑しさであった。
読了日:1月16日 著者:朽木祥
アーサー・ランサム自伝アーサー・ランサム自伝感想
ツバメ号とアマゾン号』を始めとする12冊は、ランサムとともに生まれ、まだ形にならないままにランサムとともに育っていたのだ。長い周り道の後の自伝はあの12冊が世に出るまでの道でおもある。45歳のランサムが心から楽しんで書いた『ツバメ号…』の原稿を手放した時の爽快感を、そのまま、私は、読書の楽しみとして味わっている。本のなかからふく風を浴びているようだ。
読了日:1月13日 著者:アーサーランサム
希望のかたわれ希望のかたわれ感想
「ふ・しあわせ」で毒にまみれた「希望」のあいだから、地に足のついたまっとうなものが現れるのを感じる。維持することも、探すことも困難だけれど、いくつかの顔を思い浮かべながら思う。絶望といいたくなるような悲しみを前にして、やっぱり明るいものとして希望が生まれてくる様を、思い浮かべてはいけないだろうか。しあわせでもふ・しあわせでもないものを探して。
読了日:1月11日 著者:メヒティルトボルマン
おとうと (新潮文庫)おとうと (新潮文庫)感想
姉弟、二人寄り添えば寄り添うほどに寂しくひしひしと孤独が押してくるよう。家族、だれもが孤独で寂しいのはわかる。でも子らは暗がりに身を寄せ合って震えているやせた猫のようなイメージだ、とやるせない怒りがこみ上げてくるが、宙でそのまま消えていくようで虚しい。求めたって何も得られないのに、からっぽなのに、それでも家族であろうとする姉の心が悲しい。
読了日:1月7日 著者:幸田文
若い小説家に宛てた手紙若い小説家に宛てた手紙感想
正直、抽象的な話は、私にはちょっと難しい。しかし、この書簡集(?)は、小説を読む者にとっては、文学の世界への招待状のようである。ただ読んでいた作品がどれほどの宝であったか、気づかせてくれる。全体と細部とにいきわたった作家の魂に思いを馳せる。小説が書かれることへの敬意が湧き上がってくる。例として出される作家・作品群が、気になり、沢山メモをとった。
読了日:1月5日 著者:マリオバルガス=リョサ
悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)感想
物語の舞台である狭い部屋は、この女の生まれ育った社会そのものであり、女の人生そのものである。読者のわたしは叫びわめきたくなる。「外へ出してくれ」と。けれども、女は外に出ることはできないのだ。アフガニスタンの女性のヴェールの内側の声を私は聞かされている。そちらのほうへ手を出しかけて、とめる。熱すぎて触れない・・・
読了日:1月1日 著者:アティークラヒーミー

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