『たんぽぽ娘』 ロバート・F・ヤング

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)


私の思い浮かべるSFという言葉のイメージは、何か無機質で硬くて冷たい感じなのだけれど、この短編集には、緑なす森や草原の匂い、葉をそよがせる風の音などをイメージする。
一番好きなのは表題作『たんぽぽ娘』だけれど、『荒寥の地より』も、『ジャンヌの弓』も、好き。それから『河を下る旅』も『スターファインダー』も捨てがたいし、『特別急行が遅れた日』も・・・ああ、どれもみんなそれぞれに、読後の余韻がたまらない。


どんな感じのSFだろう。
どれもみんなそれぞれにテイストが違う。読後に余韻が残るのだけれど「余韻」の音も高い者、低いもの、細く澄んだもの、響き渡るもの、さまざま。
どの物語にも、沁み入るようなかけがえのない一場面、というのがあえるような気がする。それは映像となって、目の前に鮮やかに浮かび上がる。
それから、そこかしこに詩がある。
それは息を呑むほどのとびっきりの映像ではない。きっともっともっと素晴らしいものはほかにたくさんあるだろう。
でも、そのイメージを好ましく思うのは、とても身近だから。そして、調和と平和とを感じるから。
それは、慕わしい風景なのだ。その風景のなかになら、すうっと入っていける。そこから何かを始めていける、そんな身近さが、慕わしく感じられる。
SFなんだけれど、懐かしい感じなのだ。ほっとするのだ。
同時に、ふいっと寂しくなる。時間はとまっていない。風景は移り変わっていく。当たり前のように享受していた平和な世界もまた、知らないうちに、変化してしまう・・・
移り変わっていくことの切なさ、二度と戻らないもののかけがえのなさなどを呼び起こされるのだ。
そして、身のまわりをもう一度改めて見回してみたくなる。ありふれた日々だけれど、一瞬一瞬かけがえのないものなのだ、と思う。