チボー家の人々(10)1914年夏Ⅲ

チボー家の人々 (10) (白水Uブックス (47))

チボー家の人々 (10) (白水Uブックス (47))


8巻、9巻、10巻。この間はわずかな日数でしかない。
多くの人々(名前を覚えることはとっくの昔に断念)、多くの国や都市、そして、多くの立場や考え方意見が、目の前を通り過ぎていく。
わずかな日数を描くのに、これだけ膨大なページ数を使いながら、ゆっくりした感じは少しもない。
目が回るような流れ、そしてその流れは瞬く間に激流となり、一気に「戦争」へと流れおちようとしている。
わたしは怖い。
この一場面一場面が、あまりにリアルで、この流れに流されているのは、ヨーロッパの市民たちなのか、わたし自身なのか、わからなくなる。


この時に革命家、であることはどんな意味があるだろうか。
資本主義を覆そうとする革命家たちの考え方は、千差万別ばらばら(ことに戦争のとらえ方)
ごく普通の市民たちの意見交換とさほど変わらないような気がした。
彼らは何を志し、何に向かおうとしているのか、そもそも心合わせようという気があるのだろうか。
それぞれが信奉する幾人かの指導者たちの、本当の腹を知っているのだろうか。盲目的に走り回り、その行動が何に繋がっているのかかわっているのだろうか。わかっている「つもり」でしかないのではないか。もしかしたら、自分が目指す方向と真反対の方に目をつぶって疾走しているのではないか・・・


モンルージュの会合でのジャックの演説は美しかった。
また、アントワーヌとの昼食の折の兄弟の会話も美しかった。(真反対の道を進むとしても、彼らの中にともにある美しいものはとても似ている)
清廉な理想に燃える、あまりに潔癖すぎるジャック、
どんどん勢いを増している流れに逆らって、いつまでそうしていられるのだろう。
ひたむきな彼の恋も(彼らの恋も)、あまりに悲劇的な匂いがして、先を読むのがどんどん辛くなる。


心に残るのは、ショパン