- 作者: 倉知淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/07
- メディア: 文庫
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この「安楽椅子探偵」さんは、安楽椅子どころか、「駄猫のように」昼寝ばっかりしているのでした。
インチキ(?)占い師の辰寅。
占い師のもとをわざわざ訪れるお客さんたちは、みんな深い悩みを抱えている。
インチキ占い師なのに、辰寅、良く当たる、と評判です。
なぜかな。
姪っ子にして大学生、辰寅のもとでアルバイトをする美衣子によって語り聞かせてもらいます。
日常のなぞ、って言ったって、ほんとに解けてみれば「なあんだ、そんなことか」(時には、「ちょっと、ここまで読んでそんなのありなの」とも)
しかも、探偵役は「駄猫」のようなインチキ占い師で、彼の推理ったら、ほら、こんなこと言っているんです。
>「・・・大体の雰囲気で方向性が判って、何となく全体の輪郭が掴めて、答えだけ思いつく、って感じかな」
>「後で理屈をつけると、今話したみたいなことになるんだけど・・・」
>「・・・自分でもどういう思考過程なのか、占っている時はよく判らないや」
占いがインチキなら、探偵としても、はなはだ頼りない、っていうか、
さもなきゃ、際立って勘がいい、というか。やっぱりインチキでもなんでも「占い師」を職にするくらいだから。
たとえば、お気に入りの「ゆきだるまのロンド」
二人雪娘の伝説のせつなさと、占いのご託宣(?)のギャップに恐れ入り、
最後はなんとなくほのぼのとした気持ちになる。
そうして、世はこともなし、って感じがなんとも清々しいのです。
この短編集の全部、とはいかないまでも、ほとんどの物語を読み終えたときに、ほんわかとした温かみが残るのが好きです。
そして、人(ごくごく普通の人)の集まるところって、なんかいいな、と思います。
切れるんだか切れないんだかわからん、雲をつかむようなひょうひょうとしたへんてこな、でもそこそこイケメンの占い師辰寅、
よくわからないだけに、かぎりなく奥行きがありそうでなさそうで(笑)親しみがわいてくる。
だって、インチキなのに、これだけあたるんだもの、もうちょっとヤリ手だったら大金持ちになれますよ?
でも、そういうことはしないよね。きっと面倒くさいから嫌だ、とか何とかいうよね。
だけど、ほんとはもっと深いところにあるにちがいない何かいいものを純粋に信じさせてもらえるような気がするんだよ。
しっかりものの姪っ子とのコンビも楽しかったです。