『世界推理短編傑作集1』 江戸川乱歩(編)


エドガー・アラン・ポー『盗まれた手紙』(1844年)に始まって、ジャック・フットレル『十三号独房の問題』(1905年)に至る、ほぼ19世紀に発表された八つの推理短編が収められたアンソロジー
私のようにミステリに疎い者でも「あ、これ読んだことある」と思う作品、たとえば、コナン・ドイル赤毛組合』、
それから、アントン・チェーホフの『安全マッチ』のように、この作家が、推理小説を書いていたのか、と驚かされた作品、
さらに、その作家の有名な長編小説は聞いたことがあるが、こんな小じゃれた短編も書いていたのか、と楽しくなってしまう、たとえばウィルキー・コリンズ『人を呪わば』
などなど、粒揃いのアンソロジーだ。
殺人事件、盗難事件、詐欺に賭け事、不可能への挑戦。
ちょっと皮肉なユーモア小説、重苦しい後悔に沈む物語もあるし、カフェの片隅で老人が語って聞かせる、昔話のような居心地の物語もあるし、いったり来たりの書簡もある。なんて多彩なのだろう。


19世紀という時代の雰囲気も、とてもよい。
馬車が駆けて、ガス灯が灯る街。お屋敷には執事や召し使いがいる。
起こる事件に立ち向かう探偵たちも、どこかゆったりしている。
どの物語も(殺人事件の物語であったとしても)後味は悪くない。


好きなのは、ウィルキー・コリンズ『人を呪わば』
自惚れ屋さんのお間抜けな報告書をにやにやしながら読んでいると、「事件は解決したよ、あれ、まだわからないの?」と、作者に肩を叩かれたような気がして、びっくりしました。


ジャック・フットレル『十三号独房の問題』は、
不可能をいかにして可能にしてしまうか、そのお手並みにどきどきした。
「2+2はいつ何時といえども4なり」という命題を解明するために35年も費やしてきた人が、最後に4-2=3とか、ずるい(?)


それから、バロネス・オルツィ『ダブリン事件』で、出会った「隅の老人」の話をもっと聞きたいものである。シリーズがあるとのこと、ぜひ、読んでみたい。


この本におさめられた作品、どれもミステリというより、推理小説と呼ぶほうが相応しい気がする。
ああ、至福の読書の時間でした。