鳥とけものと親類たち

鳥とけものと親類たち (1977年)

鳥とけものと親類たち (1977年)


「虫とけものと家族たち」(感想はこちら)で描き切れなかったダレル家の物語が、続けてこの本で描かれています。
コルフ島での五年間の家族の記録ですが、この五年間は、まるで人生からもらった輝かしい休暇のようです。


五年・・・
そんなにたくさんじゃないけれど、きっとだれもが、忘れられない素晴らしい時間を持っている。
それは二、三日の出来事であったり、ほんの一瞬であったり。
時間の多寡は関係ないと思う。
その一瞬、ふっと全てが満ち足りて、「ああ、今このときを絶対忘れないようにしよう」と思う。
そういう至福の時間を思い出して、そのときの感覚を、この本を読みながら思い出している。

>温かい空気とぶどう酒、それに憂愁に満ちた夜の風景がぼくに甘い悲しみをもたらした。これからもずっとこんな風に楽しいんだ、とぼくは考えた。

このあと、ダレル家の人々も戦争の渦中に生きることになったのだろう。
だけど、嘗て経験した輝きは消えるはずがない。


暗い日々に、そっと取り出して、その明るさを何度でも味わうことができる。
ジェレミーたちの素晴らしい日々に照らされて、自分の中に眠っている温かい光をゆり起している。
それが、このシリーズ(あと一冊ある!)を好きだと感じた理由です。
懐かしくて、少しせつない。そして、豊かで幸せな時間。