千年の森をこえて

千年の森をこえて

千年の森をこえて


千年前も今も、ほとんどその姿を変えることなく息づくアメリカの深い森が舞台。
千年前、二十五年前、そして今の物語が、交互に語られます。
千年前の物語はアメリカの神話に由来するそうですが、千年の時を経て、今の物語に繋がっていきます。
バラバラだった物語、皮肉で酷い、いくつかの話が、揺れつつ、繋がりつつ、静かなひとつの物語へ流れ込んで、大きな感動を呼び起こしました。
深い森に吸い込まれるような静かな文章でした。詩を読んでいるようでもあります。
湿った森の空気を皮膚に感じ、川と木々の匂いもしてくる。


湿度の高い森の空気の中には、ここに生きた者たちの、目に見えないいろいろな痕跡が残っているようです。
孤独、執念、恨みや絶望・・・暗く強い思いは、千年という気の遠くなる時間さえ、一瞬に感じさせるよう。
そして、暗いばかりに見える森の奥からちらちらと小さな明るいものが・・・ほんのかすかに輝いている。
それはほんとうに小さいけれど、それが見えるとほっとするし、目を凝らしてもっともっとよく見ようと思ってしまう。
それは『愛』なのだろう。


心に残るのは、子どもの自立のことです。
子どもはいずれ、親から離れていくもの。
元気に旅立てば、親も子もそれでいい、と思っていましたが・・・
親の苦しみ、不条理を知り、そこから親を救いだしたい、と願う子の願いに心動かされていました。
子どもって、親が思う以上に、びっくりするほど高いところまで上っていくこともあるのかもしれません。
それだけで大きな奇跡みたい。
そういう奇跡を起こす子どもがいるならば、もっと大きな奇跡を呼び寄せるのも不思議ではないかもしれない。
全ての奇跡は『愛』という言葉につながります。
あんなに小さくてわずかな明かりだと思っていたのに。