- 作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,小野寺百合子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/12/03
- メディア: 単行本
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以前読んだ『ムーミン谷の十一月』(感想)は、ムーミン一家がいないムーミン屋敷の物語でした。
あの長い留守は、こういうわけだったんだね。というお話です。
ムーミンパパの不安感そのままに、なんとも不安な滑り出し。
安定した快適な暮らしを捨てて冒険を選ぶ、といえば、かっこいいのですが、目的地は決まっています。
大海のまんなかの「はえのふん」のような島なんです。
そこから感じられるのは、閉そく感でした。
なぜこんなところに?
そして、島に渡れば渡ったで、いろいろなことが思い通りにいかないのです。
ムーミン一家が居を定めたのは、明かりのつかない無人の灯台。
ここで、ムーミンパパは、トレードマークのシルクハットを脱いでしまいます。
帽子を脱いで、別のと取り換えるのですが、これ、とっても落ち着かない気持ちになりました。
帽子を脱ぐことで、自分さえも無名のものに変えてしまったような気がして。
しかもそこは、寒々とした明かりのない不安定な世界なのです。
それでも、ムーミンパパはこの世界に明かりをともそうとしたのでした。
ムーミントロールは、ムーミントロールで、近づきつつあるものへの不安と怖れと、一人で戦っています。
それは恐ろしいことなのですが、同時に、彼独特の嗅覚で、美しいものへの憧れをしっかり感知しているのです。
わたしは、ムーミントロールかこの島から敏感に感じ取る美しさが大好きです。
ムーミントロールの感性に反応するかのように、この島はその美しさを彼にだけ見せてくれたのかもしれない。
ムーミントロールは、感受性の豊かさ、繊細さのおかげで、逆に逞しくなっています。
美しさへの憧れは、不安に打ち勝ち、明かりをもたらします。
それは、ムーミントロールがうまれながらに持っているバランス感覚かもしれない。
暗く禍々しいものも、神秘的な美しいものも、ありのままにそっくり吸収しているみたい。
ムーミンパパの帽子と灯台の明かり。それはやっぱりひとつの象徴のように思います。なくしてはいけないものとしての。
最後に、大好きなムーミンママの言葉です。
「さあ、あしたもまた長い、いい日でしょうよ。しかも、はじめからおわりまでおまえのものなのよ。とてもたのしいことじゃない!」