紙人形のぼうけん

紙人形のぼうけん紙人形のぼうけん
マーガレット・マーヒー
清水真砂子 訳
岩波書店
★★★★


「あるわよ、風ならあたしの中に。あたしの中には、あらしだって、おはなしだって、秘密だって、そりゃもう、いっぱいつまってるんだから。字でも、絵でも、どんどんかいて、あたしの中にあるものを全部ときはなってごらんなさいよ。」
という、白い紙の声がすてきです。
目鼻のついたお人形はそれぞれに魂を持って、それぞれの物語を話しだすのだろうけれど、
その前に白い紙にすべての物語がつまっていたのでした。
形にならないままに、エネルギーの塊として。
この白い紙から生まれた五人の紙人形の姉妹は、この子達に姿かたちを与えた人たちと一瞬気持ちを通わせて、
お人形と人間、両方の中身に、すばらしい変化をもたらして、さあっと別れていきます。
この五人のお人形の形に、目鼻をつけて服を着せて靴をはかせて、
それぞれの表情を与えるのが、みんな違う人間だ、というのがすてきです。
絵の得意な人も苦手な人もいて、それぞれに違った気持ちで(でもそんな自分の気持ちにさえ気がつかずに)人形に心寄せて、
人形の姿を描くのに使われた有り合わせの画材(赤のフエルトペン、えのぐ、えんぴつ・・・)もそれぞれで・・・
そして、五人全員が揃うまでにもとても長い年月が必要だったのです。
だから、形だけはいっしょだけれど、あきれるほどに雰囲気の違う五人姉妹、それだからこそ惹かれます。


お話のつまった白い紙は魔法も知っているに違いないのです。
わくわくする魔法、希望あふれる魔法。
そんな白い紙から生まれたお人形だもの、素敵な冒険を求めるのも納得してしまいます。
人生は冒険、ともいえるかもしれません。不思議に満ちた冒険です。
ひとりだけではない、誰かといっしょに生きていくこと、常に変わりながら続いていく世界。
こんなに薄い紙なのに、水にぬれたらふにゃふにゃになってしまうし、
くしゃくしゃにまるめられたり、
もしかしたら破れたり焼かれたりしてしまえば、あとかたもなく消えてしまう運命の、
はかないこの子達の物語は、なんと厚みがあるのだろう。


そして、この本も、まっさらな白い紙から生まれたのだ、ということを思い出します。
この紙から、こんなにワクワクする素晴らしい物語が生まれました。
白い紙を前にした人間に物語を作らせるのも、お人形を作らせるのも、
そして、それらの物語やお人形に命を与えるのも、もしかしたら、みんな紙の魔法かもしれない、とふと考えました。


まねして、手をつないだお人形を作りたくなりました。