トレッリおばあちゃんのスペシャル・メニュー

トレッリおばあちゃんのスペシャル・メニュー (児童図書館・文学の部屋)トレッリおばあちゃんのスペシャル・メニュー
シャロン・クリーチ
せなあいこ 訳
評論社
★★★+


「おばあちゃんはいつも、考え深くて、落ち着いてて、がまん強い」とロージーは言う。
ロージーの話を聞きながら、おばあちゃんがお料理する。
おいしそうなおばあちゃんの料理。スープ(ズッパ)だったり、パスタだったり、イタリア風の家庭料理。
王道の料理で、きっと、家庭ごとに作り方も味も違うにちがいない。
いろいろな材料を入れてぐつぐつ煮込んだズッパはいいにおいがしてきそうで、おなかがすく。
ロージーやベイリーに手伝わせて、粉から作るパスタはもみこんで、のばして、
手をかけて、たくさんの野菜やミートボールといっしょに煮込まれる。
手も時間も素材もかかりにかかったおいしそうな煮込み料理。


おばあちゃんは手を動かしながら、ロージーの話を聞いてくれる。
聞き上手のおばあちゃん。
一生懸命だけれど、それはどこかおかしいよ、それはだめよ、と頭からはねつけたりは決してしない。お説教もしない。
かわりにおばあちゃんは自分の話をする。
たくさんの思い出、たくさんの引き出しを持ったおばあちゃん。
どうしなさい、とも言わず、ユーモアを交えて自分の思い出を話してくれるおばあちゃんがすてき。
スープを作るところで、いろいろな野菜を(たくさんの色の野菜を彩りよく)次々におなべに入れていく場面があるけれど、
おばあちゃんの頭の中もこのスープみたいになっているのではないかな、と思います。
イタリアで過ごした子ども時代、アメリカに渡っての結婚生活。失ったものや後悔したことの数々。
どれも少しだけユーモアのスパイスを効かせておばあちゃんの中で煮込まれていたのでしょう。
一朝一夕で「考え深くて、落ち着いてて、がまん強い」おばあちゃんは出来上がらないはず。


読了したばかりの「めぐりめぐる月」もそうだった。
すてきなお年寄りが出てきます。
そして、子どもにお話を促します。そして、子どもは、どうすればよいのか、自分で道をみつけます。
子どもの中から答えを引き出す手伝いをする。これはなかなかに難しいことではないでしょうか。
ロージーの話す事は、ほんとは一筋縄ではいかないはず。
自分の身の回りをぐるりと見渡せば、障碍のこと、家族のこと、友人関係、恋愛問題・・・
なかにはどきっとするような事件がさらりと盛り込まれています。
傷つき、傷つけられ、悩み、悩ませ・・・すべての物語はスープの中に。
おばあちゃんのような味になるには、まだまだじっくり煮込む必要がありそうです。


おしまいはおいしい料理をみんなで食べて大団円、というのがいいです。
おいしいものを食べることって、最高の幸せじゃないですか。
しかもここに到達するまでにさんざんおいしい匂いをかいできたんですもの、おなかぺこぺこだったんです。