グリーンフィンガー 約束の庭

グリーンフィンガー 約束の庭グリーンフィンガー 約束の庭
ポール・メイ
横山和江 訳
さ・え・ら書房
★★★★


ひとりの人間の中にはなんとたくさんの才能の種が眠っているのだろう。
そして、それは、なんと色々な方法で発芽するのだろう。
例えば、読むことの種も書くことの種も、これは発芽しないのではないか、種が悪いのか、土壌が悪いのか、
と、まわりがあれこれ首をひねっている間に、別の種が思わぬところで芽を出す。
そして、その芽が育つに引っぱられるようにして、思いがけずダメだと思った種が芽を出したりするから、おもしろいものだ。
元気な種が育てば、それを栄養として、引っぱられるように、ダメな種も、一生懸命育つし、育てる側も、一生懸命になる。
どんな方向からどんなきっかけで種を出すかわからないから、おもしろいものだ。


グリーンフィンガー(緑の指)。植物を育てるのが上手な人のこと。
その植物は、人の中に眠る種(どんな植物になるかもわからないもの)を揺り起こし、育てる力をも言うのかもしれません。
そして、生まれながらにグリーンフィンガーを持っている人もいれば、努力して手に入れるひともいるのかもしれません。


大人たちも、手探りの時代なのかもしれません。
自分たちの中の種をどう育てていいのかもわからないのに、子どもたちの種の心配もしなければならないから、厄介です。
私は、自分の親を思います。
もっと上手に子育てしていたよね、子どもに不安な思いなんてさせなかったよね、
親は自分よりずっと大きくて包容力があるのだ、ということを子どもの頃には疑うことはなかったよね、
と思い出し、思い出すほどに、自分の未熟さ、無力さを思います。


ケイトは、庭の草と枯葉の下からブルーベルの青い花が咲いているのを見つける。
死んだような庭の中で、それは生きていました。
ケイトの中にある種も死んでいないことを知ります。
それは芽を出す時を待っていました。。ケイトが自分で気がついて、自分で世話して芽を出させたのです。
死んだように見えた庭は、生き返ります。
ウォルターは、ケイトの手をみて
「グリーンフィンガーっていうんだ。おまえさんもいつかそうなるだろう」「わしの手のようになる」と言います。


誰もが、どんな夢を持ちどんな方向にでも進んでいける現代。
でも、家族でいるためには、それぞれが自由に伸びて葉を茂らせたら、まとまりがなくなってしまう。
一律に刈り込んでしまおう、というのではなく、それぞれがそれぞれに一番美しく瑞々しくいられる庭になる方法がきっとあるはず。
生まれながらのグリーンフィンガーなんてそこにはいないのだもの。
ケイトたちがイバラを刈り取ったら美しい庭が現れたように、この家族の中から美しい庭が現れるに違いない。
だけどどうやったら?
まだまだ長い年月がかかるのだろうか。
庭が教えてくれるのかもしれない。この家族のそれぞれのグリーンフィンガーを育ててくれるのかもしれない。
植物は芽を出し、庭は再生する。
ケイトの読むこと書くこと、学習することの芽も出て、少しずつ伸びてきました。
庭もまた、本来持っていた姿を取り戻しました。
家庭も庭であるはずです。
ケイトはグリーンフィンガーを持っています。
ここに希望がなければ、なんのための「約束の庭」なのでしょうか。蘇った庭はこの家庭の将来を写す鏡のようです。