晩夏に捧ぐ

晩夏に捧ぐ<成風堂書店事件メモ・出張編> (ミステリ・フロンティア)晩夏に捧ぐ(成風堂書店事件メモ・出張編)
大崎梢
東京創元社ミステリ・フロンティア
★★★


成風堂事件メモ二冊目は長編ミステリでした。
まず、巻頭で、杏子さんと多絵ちゃんコンビ、ほんのご挨拶代わりに店頭での謎をさらっと解いてみせて(ぱちぱちぱち)、いよいよ本題に入ります。
長野の小さな町の老舗書店で幽霊が出るという。その幽霊はどうやら27年前の殺人事件と密接な関係があるらしい。幽霊騒ぎのせいで書店は存亡の危機にさらされている、という。この老舗書店「まるう堂」に勤める、杏子の元同僚・美穂に助けを求められて、杏子と多絵は幽霊の謎を解くべく、休日返上で長野に向かいます。

大都市の駅ビルに入っている今風の書店成風堂に対して、今回の舞台まるう堂は、小さな地方都市の商店街に位置する地元の老舗書店です。
成風堂から、わたしのよく利用する書店を思い浮かべたのに対して、地方の老舗書店という言葉から、自分の育った町の本屋さんを懐かしく思い出しました。まるう堂ほどの素敵さはないけれど、町中の人たち誰もが知っている本屋さん。児童書から一般書、毎月楽しみな月刊誌をどきどきしながら買いに行く、問題集や参考書もみんなこの本屋さんで入手したのでした・・・どの町にもきっとこうした書店はあるのでしょうね。
しかも、このまるう堂の描写の素敵なこと、きっと地方で愛され続ける本屋さんならではの気の配りかた、その温かい手工業職人のような書店の雰囲気に魅了されました。
杏子が浮き立つ気持ちで口にした言葉「棚が話しかけてきますね」という言葉にもため息。一作目とともに作者の「書店」そのものに対する限りない愛情を感じます。

この作者は、こんなにも素敵に愛情を篭めて、しかも一作目と二作目ではまったく違う種類の書店をみごとに描き分けてくれます。書店そのものが主人公であり、すばらしいキャラクター、と思います。
なのに、なぜか登場人物の性格が・・・うすく感じてしまうのです。人間より本屋の性格のほうが濃い、というか・・・。ちょっと意地悪な感想かもしれませんが・・・
一番感じたのは、実は杏子さんなのです。
一作目であんなに輝いていた「しっかり者書店員」の杏子さんの性格がなんだかぼやけてきたような。イメージがかわった、というより、わからなくなっちゃった。ホームグラウンドの成風堂を離れたせいでしょうか。多絵ちゃんが名探偵なのはわかるものの、一作目では、このふたり、いっしょに謎を解く、というイメージだったんですけどねえ。ちょっと残念です。三作目はたぶんホームに戻るでしょうから以下期待します。
あとは・・・事件関係者ですが・・・これがあまり深みのない人たちなんですよね。通り一遍の説明で、全て理解できてしまうような感じで、その説明も、ミッキーマウスの張り付いた笑顔(他の表情はできない)を思い浮かべました。
自分が女であるせいか、亜也子さんに期待したんですけど。だって登場のしかたがとってもインパクトあったので、もっと奥行きのある人かな、と思ったら・・・見た目どおりでした。なーんだ。
短編では(その事件で登場する人とのつきあいも短いせいか)あまり意識しなかったのに、長編だとこういうことが不満になってしまいます。
本屋が魅力的であればあるほど残念で・・・

でも、ミステリはおもしろかったです。
事件関係者につぎつぎ会って、インタビューしていくのですが、27年前の殺人事件の犯人らしき人の本当の姿が、読めば読むほどわからなくなってくるのです。翻弄されました。
謎と、本屋への愛、この二つ夢中になって最後まで読みました。