『グリーン・ノウの石 』  L・M・ボストン 

グリーンノウシリーズ別巻。

>時代は西暦1120年、イギリスがまだ戦争に明けくれていた頃のこと。サクソン人を征服して新しい支配者になったノルマン人の貴族が、マナーと呼ばれた領地に、お城をかねた館を建てます。(訳者あとがきより)

この館がグリーンノウで、その初代当主の次男ロジャーが主人公です。 最初、館の建設場面やら、石工や鍛冶屋の話など、なんとなくサトクリフの世界に似ている感じでした。
このロジャーが丘の上の魔法の石の力を借りて、540年後、680年後、さらに、100年、と後の世界と行き来しながら、トービー、リネット、アレク゛サンダー、それからスーザンとジェイコブ、さらにはトーリーとおばあちゃんと出会い、友情を結ぶのです。

今まで読んできたグリーンノウの物語5冊のカーテンコールのようです。
石の家は深い知恵を秘めて変わらない姿で建ち続けます。周りの景色が変わり、馬が変わり、人々の話す言葉や暮らしそのものが変わってしまっても。
この物語は、深い喜びに満ちています。

ロジャーの父が聖クリストファの像を作ります。安否のわからない長男の無事を祈って。そして、長男が無事に戻ったら礼拝堂を建てようと誓います。
長男が帰って来る場面も、消息が知れる場面も、物語のなかには書かれていませんが、
トービーの時代にも、スーザンの時代にも、礼拝堂があったことをわたしたちは知っています。聖クリストファの像に寄り添うように。

最後に、ふっと寂しさが寄せてきます。
この作者は、開け広げたような歓びのなかに、寂しさや生きていくことの不条理をそっと忍び込ませてきます。
そのことが、物語に深みを与えてくれているのかもしれません。
変わっていくものと変わらないもの。喜びと寂しさがふんわりと靄のように、グリーンノウの屋敷を覆っていくようなラストシーンでした。