『九つの銅貨』  W・デ・ラ・メア

この本には、カーネギー賞を受賞した「こどものための童話集」17編の短編(訳者は『一七の宝物』と言っている)の中から、選び抜かれた5編が収められています。

独特の神秘的な雰囲気。
昔話のような語り口で、私達が日ごろ目にしているものは「そのもののほんの一部にすぎない」ことを感じさせてくれます。味わい深い物語集だと思います。
(ちょっとファージョンに似た雰囲気があります。)

第一話「チーズのお日さま」
妖精を怒らせて仕返しをされた兄に代わって、妹が妖精と交渉にむかう。
白い霧につつみこんでしまう妖精の意地悪の独特で幻想的なこと。そして、親切に見せてくれる世界の美しさ。
緑の壁を切り取って立つ娘が、とても美しいと思った。どこにも美しいとは書いてないけど、美しくないはずないだろうと思う。しかし、兄みじめ・・・。

第二話「九つの銅貨」
病気のおばあさんと二人暮らしの少女。何もかもなくし、この先どうしていいかわからなくなって泣いている時、現れた不思議なおじいさんが少女にある提案をする・・・
銅貨を隠してしまう妖精のおじいさんの意地悪にとまどったり、不思議な果樹園の美しさにうっとりしたり。
一話も二話もそうだけど、妖精の親切って気まぐれで危なっかしいなと思う。ある約束をきちんと果たせば、惜しみなく与えるのね。
これは、簡単に善悪でくくれるような種族ではないし、わたしたちの常識が通用する相手でもないらしい。

第三話「ウォリックシャーの眠り小僧」
煙突掃除の三人の小僧の魂が、夜毎妖精の歌声に呼ばれて体を離れて楽しい時を過ごしてくるのを目撃したノルじいさんは、
元気で幸福な様子の子どもたちに嫉妬して、魔女の手を借りて、抜け出した魂がもとの体に戻れないようにしてしまう・・・
ハメルンの笛吹き男の話を思い出すよう。最後に駆け出していった子供たち、どこへ行ったのだろう。

第四話「ルーシー」
大きな屋敷に住む三人姉妹の末っ子ジーン・エルスペットは、厳格な姉たちとは違っていた。彼女には空想の友だちルーシーがいた。
やがて、年を重ねて三人は貧しくなる。そして長姉が亡くなり、残った二人は家を出る。
年をとったジーンが懐かしい家を再び訪れたとき、足元の水の面に映ったのは・・・ これが、わたしの一番好きな話。
彼女のルーシーとの交流が美しい。
また、何もかも失って、家からひとつひとつ家具が運び出されていくたびに幸福になっていくくだりがいい。
いつかきえてしまって見出せなくなったものが、実はいつのまにか自分の中でみつかる幸せ。

第五話「魚の王様」
釣りキチガイの若者が、魔法で人魚の姿にされて閉じ込めれれている娘を助けるために、自分も魔法の薬で魚に変身して魚の王様を捜しに行く・・・
高い塀の向こうの世界にどきどきする。あの親切な女中さんは最後にどうなったのだろう、どこにいるのだろう。気になる。