アーサー・ランサムのロシア昔話

アーサー・ランサムのロシア昔話アーサー・ランサムのロシア昔話
アーサー・ランサム
神宮輝夫 訳
白水社


ヒュー・ブローガンの「まえがき」に
「全体の傾向は『ピーターおじいさん』よりもやや暗鬱だろうが、これもまた、むかしから暗い面を持っているロシア農民世界の真実の姿なのである」
なんて書かれていたので、ちょっと覚悟してページを開きました。
だけど、読み始めれば、すっかり物語のなかへ。
暗い、というか、皮肉であったり、何かのたとえのようであったり、確かに手放しで笑えない作品が多かったかもしれません。
「ピーターおじいさん」よりも大人っぽいかも・・・。


「鳥とけものの戦争」の情け容赦のなさは、やっぱり現実の国と国、民族と民族の争いを象徴しているようで、
ハッピーエンドといえども、喜べませんでした。
「ジプシーと聖ジョージ」の世知辛さも、寒々とした感じだし、
「兵隊と死神」は、痛快でおもしろかったのに、ラストはあんまりな結末(というか、その結末がつけられないのですよね)。
「二人の兄弟」のあきらめムードとあの地下の部屋の皮肉な平和には、閉塞感に息苦しくなってしまいます。


神宮輝夫さんによれば、ランサムは「再話であるとともに、独自の物語を創造しようとつとめた」とのこと。
昔話というより、ランサムの作品として楽しむべきもの、とも。
もしかしたら、この物語集の暗さ、皮肉っぽさは、
ピーターおじいさんよりあと、第一次世界大戦ロシア革命のころに書かれたもの(らしい)だからかもしれません。


けれどもその一方で、「白鳥の王女」の美しさ。
白鳥から娘に変わるときの描写の美しさや気品などに、ため息です。
ラストは、この本では、こうなるのか。
いろいろなバージョンがあるのかもしれません。
「キツネ話」も楽しかったな。
さまざまなキツネが出てきました。
どこの国でもキツネは良きにつけ悪しきにつけ、賢い存在なのかしら。
「高価な指輪」の、醜い女たちが好き。
どこまでいっても醜いままなのもお気に入りです。


やっぱり昔話って楽しい。どんな展開になっても。小説を読むのとは別の楽しみ。
細部まで詳しく書かれることなく、多くの部分を読み手や話し手、聞き手の想像力に委ねられているせいかもしれません。
また、かなりのお話が、別の国の昔話や日本の国の昔話に少し似ています・・・
たとえば、「白鳥の王女」は「羽衣」、「二人の兄弟」は「浦島太郎」に、「高価な指輪」は「三枚のおふだ」に少しだけ似ていると思いました。
遠く離れた他所の国に、似たお話があるというのも、昔話のおもしろさ、不思議さかもしれません。
フェイス・ジャックスの木版画ふうの挿絵もすてきで豪華さがうれしかったです。